うり坊、浄化で少女になった

秋の叶

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村の居候

村に行く

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 浄化の魔道具の効果なのか、凶暴な魔獣に襲われる事なく山裾に下りてきた。
 人里と山を区切る塀の切れ目を見つけ、そこから村に入る。
 思いっきり不審者だろうけれど、子供がこんな格好で出てきたら大人は助けてくれるはず。たぶん。
「こんにちは。攫って売ります。」なんていう事態だけはごめんだ。
 まずは親切な人に会える事を願った。

  
 村の中を見回すと、意外に近代化していた。
 そういえば叔母夫婦がエレベーター付きのアパートを各地に何棟か作ったと言ってたっけ・・・模倣して同じような物件がどんどん出来上がっている気配。
 しかも道路の素材はともかくとして、ちゃんと歩行者と車が区切られている。

 田畑の区域には小川が流れていて、外の堀と繋がっているっぽい。
 魔法で水が出せるから上下水道は無さそう。
 下水も大量に流すときは各家庭で一旦溜めて、洗浄したり浄化しているのかも?


 きょろきょろしながら歩いていると、離れた所からわいわいと賑やかな声が聞こえる。
 何かを手に持ってそれぞれの家に戻っているようだ。
 元猪のせいか鼻が利く私は、それが何かわかってしまった。
「お母さん・・・。」
 人になった今は、昨夜のあれが罠だったと気が付くけれど、魔獣には美味しいものがあったとしか認識出来なかった。
 ショックだけれど、そもそも魔獣の世界は弱肉強食で、子供のうちはキツネやカラスに襲われやすい。
 勝ったものが食べて、命を繋いでいく。
「最後に聞いた言葉の通り、頑張って生き抜くよ・・・。」
 うり坊だった頃の母に心の中で誓う。

 とぼとぼと歩いていると、見かけない子供がいると気が付いたようで、畑から女性が出てきた。
「あれ、嬢ちゃんどうした?どこから来たの?」
「山から来たの。」
 猪から人間になったとは言えないので、端的に事実のみ話す。
「山?親はどうした?」
 ふるふると首を横に振る。
 魔獣が出る山の中を子供が一人で歩くのは危ない。
 畑作業を止めて、女性は村長の所へ行こうと言ってくれた。


 布を巻いた足でふぉこふぉこと歩道を歩く。
 女性は時々後ろを振り返って私がいるか確認しながら、子供がついていける速度で歩いてくれた。
 
 戸建ての家の前に到着し、玄関と思われる扉の前で女性が叫ぶ。
「こんにちはー!マサさーん、いるかー?」
 女性の言葉に記憶が刺激される。
 マサさんって・・・もしかして、義叔父さんがお世話になったって言う、あの人?
「おぉ!こっちだ。今朝の魔獣の解体が終わったところだよ。」
 ドキドキしながらじっと待っていると、後ろの方から声が聞こえて振り向く。

「あぁ、そういえば罠にかかったって言ってたねぇ。」
「皆に配っているから貰ってくるといいぞ。うん?その子はどうした?」
 声の主を見ると、六~七十歳台の男性が肉の塊を手に立っていた。

「そうそう、さっき畑の所で会ったのよ。『山から来た』って言うし、親がいないみたいで、とりあえずマサさんの所に連れてきたのよ。」
 二人で話を進めていくのを聞いていると、マサがこちらを見て口を開く。
「こんな子供が一人で?とりあえず中で話を聞くか、その様子じゃ腹も減ってるだろ?」
 素直に頷く。
「こっちは任せてくれ。さ、入るか。」
 女性に声を掛け、その後は私を促す。
「連れて来てくれてありがとう。」
 女性に礼を言うと手を振って去って行った。

 マサの家に入ると玄関が広い。
 村長と言っていたから、村人が集まった時に脱いだ靴が置けるように広く作っているのかもしれない。
 靴代わりに巻いていた布を外すと、マサが洗浄魔法をかけてくれた。
「ありがとう。」
「気にするな。ちょっと待ってろ。」
 肉の塊を持って奥へ行き、誰かと何かを話して戻ってきた。
 家族に肉を渡したのかもしれない。
 
「こっちだ。」
 先を歩くマサについて行くと客間らしき部屋に案内される。
「お邪魔します。」
 そう言って椅子に腰かけた。
「もう少ししたら女房が昼を持ってくるからな。」
「はい。」

「わしはマサと言う。この村に住んで長いから村長なんてものになってしまったが、偉くはない。」
 マサが自己紹介を始めたところで、自分の名前をどうするか悩んだ。
 元猪だと言えるわけもなく、元はおばちゃんだったと言えるわけもない。
 以前の名前を言ってもこの体の名前ではないし・・・別名を名乗るしかないなぁ。
「私は・・・しの、です。」
 嬢ちゃんの名前は?と聞かれたので、いのししから『しの』にした。
 うり坊のうりじゃ、ちょっとね。

「どこから来たんだ?」
「山から来ました。その前は分からないんです。」
「うーん・・・親は?」
 猪のオスは発情すると次から次へと交尾していくので、人間のように父親が側にいるわけではない。
 親と呼べるのは昨夜まで一緒にいた母猪の事だし、日本の両親の事をこの場では伝えようがない。
「・・・親は・・・亡くなりました。」
 親を亡くした子供が一人きりで山から下りてくる異常性にマサも頭を抱える。
「分からないものはしょうがないよな。暫くわしらの所にいるか?」
「いいんですか?」
「放り出すわけにもいかんしなぁ。ここで出来る事を増やしたらいいさ。」
「ありがとうございます。とても助かります。・・・あの、これ、足りないかもしれないけど、受け取ってください。」
 しのは左手に握っていた金貨を二枚マサに差し出す。
「なっ!・・・嬢ちゃん、こんなの持ってたのか?」
 首を縦に振る子供をまじまじと見つめた後、受け取ってくれた。

「飯の後は服と履物だな。ちゃんと着られるものを準備しないと不便だろう。」
 うんうんと強く首肯する様子に苦笑いする。
「ああ、嬢ちゃ・・・しの、山の中で蚊に集られたんだろう、全身酷いな。ちょっと目を瞑ってろ。」
 下を向いて両手で目に蓋をすると、マサが立ち上がった気配がして一旦遠ざかり、また近くに来る。
 手の甲に何か冷たいものが当たるとスッと体温が引いたような感じがして、かゆみが治まった。
 魔道具・・・?

 マサがまた離れ、戻ってくる。
「もう目を開けて良いぞ。」
 身体を確認すると、大量にあった虫刺されの腫れや赤みが無くなっていた。
「ありがとうございます。」
 マサにお礼を言って、周囲を見回すと、あった。
 義叔父さんが作ったと話していたお地蔵様の回復の魔道具。

 目を閉じていたはずのしのが回復の魔道具に目を止めたので、マサは驚いていた。
「あれは・・・。」
 しのが呟く。
「何か?」
 緊張しながらマサが聞く。
「義叔父さんが作った魔道具?」
 しのの言葉に目を見開く。
「おじって、まさか・・・。」
「えっと、名前は・・・イチさんだったかな。」
 それを聞いてマサは思わず立ち上がる。
「イチか!イチの姪っ子なのか?あいつは今どうしてる?」
「義叔父は数年前に亡くなりました。」
「そうか・・・そうだったか・・・。」
 マサは力が抜けたようにストンと椅子に座り直す。

「ある時ふらっと村に来て、メラニーさんを看取って、その時に作ってくれた魔道具だ。あれのお陰で村人がどれだけ助かったか。それから数か月後にもふらっと来て、集合住宅と道路を作っていなくなったんだよ。礼を言いたかったなぁ。」
「そうなんですね。」
 叔母夫婦と関わりのあった人が実在していた事に驚きつつも、嬉しくなった。

 それからお昼ご飯を食べ、しばらく滞在する部屋に案内してもらって昼寝をした。
 子供の精神力と体力では、朝からの出来事が盛り沢山過ぎたようで、眠気には勝てなかった。
 起きたら甚平のような服が用意されていたので、それを着た。
 ノーパンの状態は変わらず・・・。
 パンツ!パンツに慣れた私には必須の品なんだようぅ。
 こうなったら、パンツを作らなくては。


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