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寄宿舎住まいの伝道師
女子学院再び
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国が荒れる原因と言えば、権力争いや食糧や資源確保のための国土拡大争い、宗教や民族の対立が挙げられるけれど、この世界は唯一神の女神の影響力がとても強い。
怪我は回復魔法で、病気は治癒魔法で、心の病気や攻撃性は浄化魔法で解決される。
混沌を望むような女神の世界じゃなかった事に安堵するばかりだ。
そして、先日まで滞在していた大陸での活動を報告すると、私の持っている魔法が教会関係者の魔法と同じだとジェドの司祭であるフェリクスに知られてしまった。
目の前に患者さんが居て、治療できる手段があるなら使っちゃうよね。
見殺しにしたくないもの。
私が使える魔法の種類を知ったフェリクスに、教会の宣教師にならないかとスカウトされたが、私は丁重に断った。
「君の場合は熱心に布教しようとしなくとも、目の前に困っている人がいれば手を差し伸べるのだろうな。・・・せめて非正規の教会職員として活動してくれないだろうか?」
そんな事を言われた。
これがフェリクス信者のクレマンだったら、否応なく教会の人間として登録され、馬車馬のように働かされそうだ。
私の気持ちを考えてくれる言葉にほっとした。
非正規といわず、私がこっそり魔法を使ってもそっとしておいてくれるなら、それで良いのだと伝えたら、黙認してくれる事が決定した。
ただし、時々頼みごとをするかもしれないとの事。
出来る範囲であればと頷いたら、文字伝達の魔道具を渡された。
それから今後の生活の場について話し合う。
実はハマの女子学院が新しい校舎になっている。
広大な土地に寄宿舎付きの建物が出来上がっており、今までは二十人程度の学生が学んでいたけれど、教員も学生も増えるのだそう。
私はそこに復学する事になった。
え?退学扱いじゃなかったの?
学院長が事情を知って『拉致されたにもかかわらず、人命を優先し、愛を持って活動し続けた人だからこそ、周囲の子供達にとっても学びの機会が増えるでしょう。』と美辞麗句が並んで、慄いちゃったよ。
好きなように動いていただけなんだけど・・・美化されてません?
教会の一室から女学院の寄宿舎に引っ越しする日が来た。
フェリクスやアンに挨拶をし、ジャンが浮動車で送ってくれた。
小型の浮動車の中に入らない荷物は、上に乗せて紐で括るという自由さよ。
道路交通法が緩い時代だからこそのこの所業に私の方が驚いた。
こっそり結界を張って荷物が落ちないようにしていたのは内緒だ。
学院に到着するとジャンにお礼を言って別れ、荷物は浮かせて寄宿舎まで持って行く。
割り当てられた部屋は二人部屋だった。
同室になったのは、以前教室で隣の席にいた『こう』だ。
お互い久しぶりに会うので緊張したけれど、物静かな彼女のペースに肩の力が抜けた。
「こうさん、ご無沙汰しています。またよろしくお願いします。」
こくりと頷いて読んでいた本に目を戻した。
寮で暮らすのは初めての体験だ。
おはようからおやすみまで女性の宣教師(先生)と共に過ごし、毎朝神に祈る日常。
寄宿舎では食事の支度をしてくれる人もいるが、良妻賢母を育む目的もあるので学生が希望すれば自炊も試みられている。
西洋食と和食の両方が取り入れられているので、学生が結婚しても家庭で困らないような内容の品が作られている。
つまり食べる事も勉強なら、自分で作った時の仕上がりの手本として提供されている。
日曜には礼拝するし、自由時間といっても談話室で話をしたり、本を読んだり・・・あれ?私の自由時間はどこへ行った?
え?これもしかして、誘拐直後の過保護で閉じ込められている状態?
そう思うくらいにみっちりと周囲に教師達の目がある状態になっていた。
くっ、フェリクスにはめられたか?
つい、そう思ってしまう状況だった。
まぁ、未成年を預かるなら安心したところに置きたいんだろうね。
更に洋装化が進んでいるのか、制服が出来上がっていた。
以前は着物で通学していた人が多かったけれど、新校舎建設と共に女子学生の制服を作る事になったらしい。
私服は着物を着ている人も多かったけれど、学院の中では揃いのブラウスにスカートだ。
以前の世界だったらまだ袴の時代だったけれど、教会の影響が強いこの世界では制服が洋服で出来上がるのが早かった気配。
こうなると女性の下着事情は改革必須になったわけで、ソーギのミヨの家の下着店はジェドにも販売店が出来上がっていて驚いた。
縫製工場もしっかりと出来ていて、私が渡していた型紙以外にも、創意工夫されたデザインのものが出来つつあるので選ぶのが楽しい。
世間は女子学院ブームに突入しつつあって、ジェドにも女子学院が出来ている。
複数の女子学院が出来れば、女性の下着は地方よりも都市部で売れるよね。
という事で、私は夏休みが来るまで学院から出られなくなった。
夏休みが始まった初日。
久しぶりにハマのアパートで、四人で顔を合わせて近況報告。
私が寄宿舎生活をしている間、正確にはシナの国を一人で移動していた頃から、颯が九州方面と本州の間に橋を建築していたと聞いて驚いた。
あれ?旅館建築じゃなかったの?
それはそれで建築済み?
恐ろしいペースで作っていて顎が外れるかと思うくらい、ぽかーんとしてしまった。
私の驚く様子がおかしかったのか、颯はフッと笑っているし、蓮はくすくすと笑う。
栞だけが『分かるよ。』と頷いてくれた。
「俺達が時々手伝いに行っていたとしても、しのは後半、ほぼ一人で大陸に残って頑張ってただろう?だから、帰ってきたら少しでも過ごしやすいように流通環境を整えておこうかって話してたんだよ。」
颯の言葉に蓮も続く。
「大型トラックはタイヤの製造が必要かもしれないけれど、小型トラックは重量に気を付けたら製造できたのよ。しかも浮動タイプで。」
「え!それ、凄く難しかったんじゃないですか?」
浮動車の場合、荷物の重さで地面に車体が付いてしまう可能性があるのだけれど・・・。
「それで荷台に軽量化の魔石を埋め込んだタイプの車体を作って、製造したってわけ。今後台数が増えると思うわよ。」
颯や蓮の技術革新に驚く。
栞が皆の前にアイスクリームの入った器を置きながらしみじみと話す。
「蓮も『ここまで物作りに没頭する事になるとは。』なんて言いながら、楽しそうに開発してたわよ。ねっ」
結婚してから蓮を呼び捨てするようになった栞は、最後の言葉で蓮に同意を求めていた。
仲が良さそうでなによりである。
栞が作ったアイスクリームを食べながらしみじみと時間の流れを感じていると、夏休みの予定を聞かれた。
「うーん、教会のフェリクスさんから来るようにと文字伝達魔道具に書かれてたんですよね。なのでこの後に行くつもりですが、何を頼まれるのか・・・。」
「子供に厄介ごとを押し付けるタイプではないと思うけどな。あの人。」
会ったことのある颯の一言に頷く。
「就学年齢の子供だからこそ、今回は寄宿舎に入れたと思うんですよ。」
「そうねぇ、うっかり外に出かけていて誘拐されたから責任を感じていたかもしれないわよね。」
蓮もしみじみと大人の事情について言及している。
「長期の休みが有ったら、カカオの産地に行きたかった・・・。」
私の発言に全員顔を上げ、凝視される。
「だって、チョコレート食べたくなりません?」
その一言に栞がぱぁっと目を輝かせる。
「カカオ、手に入るなら欲しいですね!製菓材料としても、個人的なおやつとしても。あれ?ちょっと待ってください。もしかして輸入され始めている可能性がありませんか?」
あっ!
私が寄宿舎に入っていて情報を知らずにいる可能性が高い。
これは栞と蓮が市場調査する事になった。
チョコレートを夢見つつ、まずはフェリクスの所へ行ってこよう。
----------------------------------
いいねやエールをありがとうございます。
とても嬉しく励みになっています。
拙い作品ですが、本年も宜しくお願いいたします。
怪我は回復魔法で、病気は治癒魔法で、心の病気や攻撃性は浄化魔法で解決される。
混沌を望むような女神の世界じゃなかった事に安堵するばかりだ。
そして、先日まで滞在していた大陸での活動を報告すると、私の持っている魔法が教会関係者の魔法と同じだとジェドの司祭であるフェリクスに知られてしまった。
目の前に患者さんが居て、治療できる手段があるなら使っちゃうよね。
見殺しにしたくないもの。
私が使える魔法の種類を知ったフェリクスに、教会の宣教師にならないかとスカウトされたが、私は丁重に断った。
「君の場合は熱心に布教しようとしなくとも、目の前に困っている人がいれば手を差し伸べるのだろうな。・・・せめて非正規の教会職員として活動してくれないだろうか?」
そんな事を言われた。
これがフェリクス信者のクレマンだったら、否応なく教会の人間として登録され、馬車馬のように働かされそうだ。
私の気持ちを考えてくれる言葉にほっとした。
非正規といわず、私がこっそり魔法を使ってもそっとしておいてくれるなら、それで良いのだと伝えたら、黙認してくれる事が決定した。
ただし、時々頼みごとをするかもしれないとの事。
出来る範囲であればと頷いたら、文字伝達の魔道具を渡された。
それから今後の生活の場について話し合う。
実はハマの女子学院が新しい校舎になっている。
広大な土地に寄宿舎付きの建物が出来上がっており、今までは二十人程度の学生が学んでいたけれど、教員も学生も増えるのだそう。
私はそこに復学する事になった。
え?退学扱いじゃなかったの?
学院長が事情を知って『拉致されたにもかかわらず、人命を優先し、愛を持って活動し続けた人だからこそ、周囲の子供達にとっても学びの機会が増えるでしょう。』と美辞麗句が並んで、慄いちゃったよ。
好きなように動いていただけなんだけど・・・美化されてません?
教会の一室から女学院の寄宿舎に引っ越しする日が来た。
フェリクスやアンに挨拶をし、ジャンが浮動車で送ってくれた。
小型の浮動車の中に入らない荷物は、上に乗せて紐で括るという自由さよ。
道路交通法が緩い時代だからこそのこの所業に私の方が驚いた。
こっそり結界を張って荷物が落ちないようにしていたのは内緒だ。
学院に到着するとジャンにお礼を言って別れ、荷物は浮かせて寄宿舎まで持って行く。
割り当てられた部屋は二人部屋だった。
同室になったのは、以前教室で隣の席にいた『こう』だ。
お互い久しぶりに会うので緊張したけれど、物静かな彼女のペースに肩の力が抜けた。
「こうさん、ご無沙汰しています。またよろしくお願いします。」
こくりと頷いて読んでいた本に目を戻した。
寮で暮らすのは初めての体験だ。
おはようからおやすみまで女性の宣教師(先生)と共に過ごし、毎朝神に祈る日常。
寄宿舎では食事の支度をしてくれる人もいるが、良妻賢母を育む目的もあるので学生が希望すれば自炊も試みられている。
西洋食と和食の両方が取り入れられているので、学生が結婚しても家庭で困らないような内容の品が作られている。
つまり食べる事も勉強なら、自分で作った時の仕上がりの手本として提供されている。
日曜には礼拝するし、自由時間といっても談話室で話をしたり、本を読んだり・・・あれ?私の自由時間はどこへ行った?
え?これもしかして、誘拐直後の過保護で閉じ込められている状態?
そう思うくらいにみっちりと周囲に教師達の目がある状態になっていた。
くっ、フェリクスにはめられたか?
つい、そう思ってしまう状況だった。
まぁ、未成年を預かるなら安心したところに置きたいんだろうね。
更に洋装化が進んでいるのか、制服が出来上がっていた。
以前は着物で通学していた人が多かったけれど、新校舎建設と共に女子学生の制服を作る事になったらしい。
私服は着物を着ている人も多かったけれど、学院の中では揃いのブラウスにスカートだ。
以前の世界だったらまだ袴の時代だったけれど、教会の影響が強いこの世界では制服が洋服で出来上がるのが早かった気配。
こうなると女性の下着事情は改革必須になったわけで、ソーギのミヨの家の下着店はジェドにも販売店が出来上がっていて驚いた。
縫製工場もしっかりと出来ていて、私が渡していた型紙以外にも、創意工夫されたデザインのものが出来つつあるので選ぶのが楽しい。
世間は女子学院ブームに突入しつつあって、ジェドにも女子学院が出来ている。
複数の女子学院が出来れば、女性の下着は地方よりも都市部で売れるよね。
という事で、私は夏休みが来るまで学院から出られなくなった。
夏休みが始まった初日。
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私が寄宿舎生活をしている間、正確にはシナの国を一人で移動していた頃から、颯が九州方面と本州の間に橋を建築していたと聞いて驚いた。
あれ?旅館建築じゃなかったの?
それはそれで建築済み?
恐ろしいペースで作っていて顎が外れるかと思うくらい、ぽかーんとしてしまった。
私の驚く様子がおかしかったのか、颯はフッと笑っているし、蓮はくすくすと笑う。
栞だけが『分かるよ。』と頷いてくれた。
「俺達が時々手伝いに行っていたとしても、しのは後半、ほぼ一人で大陸に残って頑張ってただろう?だから、帰ってきたら少しでも過ごしやすいように流通環境を整えておこうかって話してたんだよ。」
颯の言葉に蓮も続く。
「大型トラックはタイヤの製造が必要かもしれないけれど、小型トラックは重量に気を付けたら製造できたのよ。しかも浮動タイプで。」
「え!それ、凄く難しかったんじゃないですか?」
浮動車の場合、荷物の重さで地面に車体が付いてしまう可能性があるのだけれど・・・。
「それで荷台に軽量化の魔石を埋め込んだタイプの車体を作って、製造したってわけ。今後台数が増えると思うわよ。」
颯や蓮の技術革新に驚く。
栞が皆の前にアイスクリームの入った器を置きながらしみじみと話す。
「蓮も『ここまで物作りに没頭する事になるとは。』なんて言いながら、楽しそうに開発してたわよ。ねっ」
結婚してから蓮を呼び捨てするようになった栞は、最後の言葉で蓮に同意を求めていた。
仲が良さそうでなによりである。
栞が作ったアイスクリームを食べながらしみじみと時間の流れを感じていると、夏休みの予定を聞かれた。
「うーん、教会のフェリクスさんから来るようにと文字伝達魔道具に書かれてたんですよね。なのでこの後に行くつもりですが、何を頼まれるのか・・・。」
「子供に厄介ごとを押し付けるタイプではないと思うけどな。あの人。」
会ったことのある颯の一言に頷く。
「就学年齢の子供だからこそ、今回は寄宿舎に入れたと思うんですよ。」
「そうねぇ、うっかり外に出かけていて誘拐されたから責任を感じていたかもしれないわよね。」
蓮もしみじみと大人の事情について言及している。
「長期の休みが有ったら、カカオの産地に行きたかった・・・。」
私の発言に全員顔を上げ、凝視される。
「だって、チョコレート食べたくなりません?」
その一言に栞がぱぁっと目を輝かせる。
「カカオ、手に入るなら欲しいですね!製菓材料としても、個人的なおやつとしても。あれ?ちょっと待ってください。もしかして輸入され始めている可能性がありませんか?」
あっ!
私が寄宿舎に入っていて情報を知らずにいる可能性が高い。
これは栞と蓮が市場調査する事になった。
チョコレートを夢見つつ、まずはフェリクスの所へ行ってこよう。
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