死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨

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33. 善良とは

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「…ツヴァイか?その姿は懐かしいなぁ!」

 テオドール殿下が懐かしそうに目を細めて笑った。
 実はこの年上の王子は家族や身内に対して向ける表情にだけ独特の柔らかさがある。

「ありがとう、ランベルトが世話になったな」
「いえ…」
 あのツヴァイが殊勝な態度で頷くのを見て、違和感を感じる。
「城内にいるのは分かっているが、たまには俺や父上母上にも顔を見せてくれ」

 殿下が捕獲したままの俺の肩を叩き、つづける。
「こんな"用"があった時だけではなく…な」
「…はい」
 控え目に微笑んだツヴァイに心底驚いた。
 外見の似た別の少年かと疑いたくなるが、正真正銘あの勝気な治癒師でしかなく…。


 夢じゃないかとブツブツ言っていたら、本調子ではないかのと心配した殿下からやっと解放された。
「ツヴァイ、すまないがランベルトをもう少し頼めるか?顔色もよくないようだ…」
「お任せください、誠心誠意お支えします」
「――せっ…??」

 驚きから抜け出せず口を開くと、ツヴァイがにこやかに近付いて来る。
「行きましょう騎士様…」
 心配する殿下と別れ、部屋に戻るべくツヴァイと二人歩き出す。


 先程の光景が信じられずぼんやりと歩き出す。
 すぐに隣のツヴァイが肘で小突いてきた。
「……なんか言えよ…」
「いや驚きが勝って…」
 色々聞きたい事はあったが、お陰で今日の所はテオドール殿下からの追及を受けずに済んだ。

「ツヴァイはテオドール殿下にだけ…ああなのか?」
 煽ったつもりはないが不機嫌な瞳で見上げられて、思わずたじろいだ。
「僕は誰の前だって善良だろ」
 答えにならない言葉を残し、さっさと歩き出した治癒師の背中を追った。




 使節団が来てから三日が経つ。

 大きく分類を終えた書類の山を前に背伸びした。
 隣国ラインリッジからの使節団の目的もやっと分かってきた。

 なんでも昨年不作だった作物の苗を、第三国から輸入したいのでその仲介をしてほしいという話だ。
 海と我が国としか国土が接していない隣国は、なにを輸入するにも海路が常だ。
 我が国の領土を通り陸路で輸出入を行うと、通行量や税金も高くつく。
 そんな関係から両国は建国以来、こういった交渉事を多く重ねてきた。
 弱味を見せたくないはずの我が国を頼らざるを得ないほど困った状態だという事だが、どうにも腑に落ちない。

「前もネジ豆の不作は同じように起こったのに…」
「オカシイって?」
 執務机の縁に腰掛け、足をパタパタと遊ばせながらツヴァイが言った。

「どうして自分以外の事象は過去と全く同じ動きをするハズだ、なんて信じてんの?」
「…それはそうだけど」
 少しでも今後エリアス殿下が命を狙われる可能性の芽を摘みたい。
 どんなに些細な事でもこの先の事件に繋がっているかもしれないと思うと、気になるのだ。


 次の言葉を探しかけて、口を噤む。
 静かな執務室に、次第に近付いて来る足音が大きく聞こえたからだ。

 間もなくコンコンとノックの音が響く。
 人払いもされていて、この執務室を訪ねてくる人間は限られている。
「…殿下は不在です」
「ランベルト・ルイジアスはいるか?」

 重厚な扉の向こうから聞き覚えのある声がした。
「マルクス団長?今開けます…が少々お待ちください!」
 騎士団長が自ら来たという事は何かあったのだろうかと気が急く。

 机に座っていたツヴァイに資料室へ隠れるよう目配せをすると、心底面倒臭そうに頷いた。
 あの一見便利な人目を避ける首飾りも、ここまで人気が少ない空間では効果が無いらしい。


「お待たせしました」
 大きな扉を半分ほど開けると、廊下にはやや緊張した面持ちの騎士団長が立っていた。
 あの事件以来合わせられていなかった顔に安堵して、俺は入室を促した。


 応接用の椅子を勧めてお茶を淹れ向かいの席に落ち着くと、騎士団長が大きく口を開いた。
「ランベルト…いやルイジアス卿。今回の一件は本当にすまなかった」
「⁉」
 ガバリと音のしそうな程の勢いで立ち上がり、深く頭を下げた団長に驚く。

「私が連れ出した場で、君を危険に晒し…私は君を守る事も出来なかった…」
「団長…顔を上げてください!」
 深々と下がった頭をなんとか上げてもらおうとするが、団長はそのまま動かない。

 確かに彼に連れられて参加した夜会ではあったが、遅かれ早かれ俺はクインシア家に接触を図ったはずだ。
 だから団長のせいではない。むしろ騎士団長には余計な心労を掛けてしまった。
「むしろ私こそ介抱までしていただき…令嬢の行動は予想外でした。誰のせいでもありません」

 カリーナ嬢とエリアス殿下が並ぶ姿を見て、呑み過ぎた俺を介抱してくれたのはマルクス団長だ。

 また団長がカリーナ嬢を取り押さえていた姿にも、感謝の念しか持っていなかった。

 それでも謝る団長になんとか頭を上げてもらう頃には湯気を立てていた茶もすっかり冷めていた。


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