死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨

文字の大きさ
54 / 60

49. 雪解け

しおりを挟む


「私が王を目指すよう仕向けたのはお前だ――ランベルト」
「わた…しが?」
 仕向ける?全くなんの事か分からない。
 混乱する俺の両手を王子が取った。

「大好きなお前が、望むから私は王を目指した。ランベルトが傍にいると言うなら…王になることも耐えようと思った」
「たえる…?じゃあエルは……ずっと……」

 嫌だったのか?それを俺が強いていた…?あの幼かった頃から今まで?
 …言葉だけで顔面を殴打されたような気分だ。立ち直れない。

「幻滅したか?…お前が望む私でいられず、すまない…」

 どうして王子が謝る必要があるだろう?謝るのは俺の方だ。
 だが思ってもいなかった心情の吐露に、俺は嗚咽を堪え切れなかった。
「ラン…どうしてお前が泣くんだ…」

「っ俺がエルを追い詰めた…?王でなければなんて…そんなつもりで……」
 言った訳ではないんだと言いたいのに。
 思い出されるのは幼いエリアス殿下を褒める自分の言葉だ。
『エルは王様になるんだね』『勉強頑張っていて偉いね』『きっとエルが治める国はもっと素敵なる』だとか。
 かつて自分から出た言葉が呪いのように反響する。
 王族に生まれて、周囲からも望まれて、俺もそんな前提できっとエリアス殿下は王位を継がれるだろうと、そう思っていた。

 王にはなりたくないとか、それでは俺が離れて行くかもとか、そんな事を考えているとは気が付けなかった。
 自分は今までこの方の何を見てきたのかと、後悔の渦に呑まれそうだ。
 次々と溢れる涙を王子の指先が優しく撫でる。そんな事してもらう価値、俺にはない。


「ずっと聞いてみたかった…王ではない私は嫌か?ランベルト…」

 指先ではない、柔らかな感触が片目に触れた。

「…ずっと俺は、エルが好きです」
「貴方がなにに成っても成らなくても、俺の気持ちは変わらない」

 昔のように抱き締めようと伸ばした手が縛られていることを思い出す。
 両手を上げるとその輪の中に殿下が自ら頭を通した。先程の片目に感じた感触が今度は唇に落ちる。

「ランが望むような自分でいたかった…そうすれば傍にいてくれると思ったから…」
 腰に回っていたエリアス殿下の腕が背中を優しく撫で上げた。
 今度こそ触れるだけではない口付けを受け入れる。

 目を開け焦点の合わないくらい近くなった殿下を見詰めて思い出す。
 ああ、そうだ殿下には出来ない事を出来ないと言い出せない、負けず嫌いな一面がある。
 解決策も自分で見付けようと、努力をするのが幼少期の彼の特徴だ。
 そういう所は全く変わらないんだなと、息継ぎの合間に気が付けば笑っていた。

「一緒に帰ろう、ラン。望むなら別の国へ逃げたって良い」
「ふははっ、二人で?それは…楽しそうだけど。テオドール殿下が何処までも捜しに来そうだ」
 想像しただけでもテオドール殿下が怒って国中にお触れを出すのは目に見えている。
「兄上には…今からでも真剣に王位を目指していただこう」

「テオ殿下が?嫌がる姿が目に浮かぶ…」
 笑い合うとまた殿下の顔が近付いて、俺は自然と瞳を閉じた…。




「――いや!!二人の世界のトコ悪いんだけどさ!?僕もいるの忘れてない⁉」

 二人揃って驚いて前方を見ると、慣れない手綱捌きに四苦八苦するツヴァイの背中があった。
「あっツヴァイ。…か、代ろうか?」
 慌てて殿下の首から腕を退け、努めて明るくツヴァイに話し掛けた。
 同時に不思議な事に、その背中に妙な既視感のような物も感じた。

「いや!!あのさ振り向かなくてもナニしてたかなんて分かるんだからね!?ってか緊張感無いのアンタら!!」
 エリアス殿下が渋々といった様子で腰に回していた腕を解き、俺の両手の縄を解いた。
 両手を軽く振ってから、ツヴァイの背後に回って手綱を貰い受け席を代わる。

「あー!可哀想な僕っ!!こんな茶番に付き合わされて!」
「茶番ってなんだよ…大体君がもっと早くに…」
「はぁ!?えっ僕に説教でもしようって言うの!?オッサンの勝手でこんな辺境まで来たのに!?」
 よほど鬱憤が溜まっていたようでツヴァイの勢いは止まらない。

「大体さぁアンタ達お互いもっとスナオならこんなコトにまでなってなかったんじゃないのー!?」
 馬車の騒音と関係なく、治癒師は声を張り上げている。

「それは…まあ、確かに申し訳ない…」
「苦労を掛けたな」
 エリアス殿下とほぼ同時に謝ると、後ろから盛大な溜め息が聞こえた。


「…それで?こんなんで逃げ切れんの?眠りクスリの効果ももう切れるかもよ?」
 眠り薬と聞いて廊下に倒れていたヤーズの様子が思い出された。
 どうやってあの宿で俺以外に飲ませたのか、気になっていた。
「もしかしてあの野菜に…?」
 俺だけが口にしなかったもの…それはおそらく夕食に出た見慣れない野菜だ。

「そうそう結構調合大変だったけど、あの野菜クスリとも相性良いんだよね」
 ツヴァイが普段からやっているとでもいうように、気軽に言うので驚く。
「詳しいんだな」
「治癒師ってさ、結局求められてる機能は医者だから。医学も薬学も必須項目なんだよね」
「…成程なぁ」
 そんな話をしていると、エリアス殿下が妙に静かになったことに気が付いた。
 素早く振り向くと、どうやら荷台にそのまま伏せているらしい。

 ――恐らく”急な眠気”で。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

初恋ミントラヴァーズ

卯藤ローレン
BL
私立の中高一貫校に通う八坂シオンは、乗り物酔いの激しい体質だ。 飛行機もバスも船も人力車もダメ、時々通学で使う電車でも酔う。 ある朝、学校の最寄り駅でしゃがみこんでいた彼は金髪の男子生徒に助けられる。 眼鏡をぶん投げていたため気がつかなかったし何なら存在自体も知らなかったのだが、それは学校一モテる男子、上森藍央だった(らしい)。 知り合いになれば不思議なもので、それまで面識がなかったことが嘘のように急速に距離を縮めるふたり。 藍央の優しいところに惹かれるシオンだけれど、優しいからこそその本心が掴みきれなくて。 でも想いは勝手に加速して……。 彩り豊かな学校生活と夏休みのイベントを通して、恋心は芽生え、弾んで、時にじれる。 果たしてふたりは、恋人になれるのか――? /金髪顔整い×黒髪元気時々病弱/ じれたり悩んだりもするけれど、王道満載のウキウキハッピハッピハッピーBLです。 集まると『動物園』と称されるハイテンションな友人たちも登場して、基本騒がしい。 ◆毎日2回更新。11時と20時◆

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

処理中です...