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54. 決意を
しおりを挟む――お互いの負担になりたくないと、距離を取って自滅した俺達はあの森の中で死んだ。
今思えばエリアス殿下を死の危機から救う為に蘇ったわけではなくて。
俺達に公平にやり直す機会が与えられたのかもしれない。
エルの護衛騎士に立候補した俺、一度死んで戻って来たなんて俺の話を真剣に聞き入れたエル。
少しお互いが歩み寄るだけでこんなに近くにいられたのに…。
駆け落ちに行こうと言った殿下が、妙に嬉しそうだった事を思い出す。
あのまま二人でどこまで行くつもりだったのか?
今となっては永遠に分からない計画の全容が知りたいような気もした。
「なにがそんなに可笑しい?」
二人してそのままベッドに潜り込んでいた。エリアス殿下の眠たそうな声が掛かる。
「いえ、駆け落ちは…どこまで行くつもりだったのかなと思って…」
ラインリッジまで行ってどうするつもりだったのだろう?
いつ自分に駆け落ちの相手は俺だと告げるつもりだったのか…粗の目立つ計画に口元が緩む。
「…ランが望むなら、今すぐにでも。どこへだって行ける」
エリアス殿下の微笑みが眩しい。
でも誰よりもエリアス殿下を見てきた俺は分かっている。
エリアス殿下は例え王族でなくなっても、このオルランド王国を深く愛している。
王になりたくないと思った時もあると彼は言ったが、愛するこの国から離れることを喜ぶような彼ではない。
そんな国より俺の方が好き…というのは想像した事もなかったが…。
「いいえ、殿下とこの国にいたいです」
様々な国を兄王子と見て回った。それでも国に帰って来た時の安心感は格別だった。
俺だって、彼が愛するこの国が好きだ。
「では…そうしよう」
答えの分かりきった問いに、真面目に答えて笑い合う。
――ひどく幸せだなと、その時実感した。
「ランベルト、なんかアンタ顔付き変わった…?」
カツラが完成して五日目、俺はヤーズ・リフラインを応接間で迎えた。
部屋に入り開口一番にこれだ。
「太った…?いや、違うなぁ丸くなった…か?」
「挨拶から、始めないか…ヤーズ…」
そう言うとやっと気が付いたように、俺と職人に挨拶をした。
俺の髪で作ったカツラを被るのはヤーズだ。
彼は今までの名前も捨てて、自分の本当の髪も隠してこれから生きることになる。
「いいんだよ、親もとっくにいないしなぁ」
今日はカツラの出来栄えの確認と、ヤーズの頭に合うかどうか確かめる為に彼を呼んだ。
「オレの髪の長さに合わせてくれたのか?」
「ああ、せめて慣れた髪型が良いだろう」
もっと短くても問題ないが、今までのヤーズの髪型に合わせて肩まで長さを出した。
化粧台の前に座ったヤーズが職人の説明を受けながらカツラを被る。
その様子を後ろから眺めていると、遅れてエリアス殿下が入って来た。
共に入室した護衛主任のサイロ様にも挨拶をする。
「違和感がないものだな…」
エリアス殿下の言葉にヤーズを見る。
確かにそこには俺と同じ髪色の青年が出来上がっていた。
「いえお待ちください、やはり元の髪がこれだけ多いとまとまりがよくありません…」
凝り性のカツラ職人の親父さんだけは納得がいかないらしく、一旦カツラを外した。
「やっぱ切らないとだなぁ…」
髪切り用の鋏を掌で回したヤーズが、俺にその持ち手を向けた。
「オレの大事な髪、アンタが切ってくれよランベルト」
「…分かった」
願掛けをしていると聞いた、灰茶色の髪に一思いに鋏を入れる。
「これからは表立ってネイシャを支えるよ」
彼女を次期統治者の座へ近付けるため、努力をするとヤーズは言った。
願掛けは止めて、自分の力で叶えるのだと言われたような気がした。
彼等二人の気持ちは想像するしかないが、少なくとも彼はネイシャのことを誰よりも大切に想っているだろう。
「長生きしろよ、ランベルト。これからも頼むぜ」
拳を肩に受けて、痛くもないのに擦るふりをする。
「…君も。成功を祈ってるよ」
使節団の仲間に見せていたような笑顔の彼に、肩の力が抜けて笑った。
鮮やかに俺を殺した追手と同一人物と思えない。
今度こそ彼の剣技も、もっと明るい場所で信念の為に振られれば良いと思う。
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