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第18章 鉄道最高地点の駅 at 小海線・野辺山駅
番外編:Side さくら&ひばり
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みずほが小海線に乗っている頃、只見線を訪問中のさくらとひばりはというと……。
「ふわぁーあぁ」
運転席で大きくあくびをしながら伸びをしているのがさくら。朝早くから運転を続けていたので疲れているのだろう。今まさに仮眠から目覚めたばかりであった。
目薬を差して、外に目を向ける。三脚の隣に金髪をなびかせた美少女が立っていた。ひばりだ。どうやら彼女は、さくらが眠っている間にも撮影を続けていたらしい。
バタッとドアが開く。奥只見の空気は、流石に10月といえども涼しい。一気に目が覚めたような気分だ。
「おーい、ひばりー」
眠気を覚ますように、ブロンズヘアのもとへとのんびり向かう。
「あら、さくらさん。おはよう」
「ああ、おはよう。どう? 良い感じに撮れた?」
「ええ、ばっちりよ」
ひばりが視線を上げる。それを追いかけるように、さくらも眼前の景色に目を向けた。
針葉樹林がどこまでも視界を埋め尽くしている。緑から徐々に色づき始めた木々は、グラデーションを形成する最中という様相だ。
その中を手前から奥にかけて、雄大な只見川が貫いている。エメラルドグリーンに染まった水質は、奥多摩で見た多摩川の鮮やかな緑色を思い起こさせた。
その只見川を横切るように鉄橋がかかっている。第一只見川橋梁だ。
「晴れてて良かったな」
「ええ。でも、煙っていても幻想的だと思うわ」
それは言い得て妙かもしれない。霧が立ちこめる中を駆け抜ける列車というのも、実に写真映えするだろう。
「でも、私たち、全く只見線に乗ってないわね。折角全通したのに」
「仕方ねえじゃん。本数少ないんだからさ」
只見線に限らず、地方のローカル線はどうしたって運行本数が少ない。鉄道写真の撮影を考えれば、車で撮影ポイントに向かった方が利便性も高く、より多くの列車を収めることができるのだ。
「なんだか、みずほさんの気持ちがわかるわ。乗らずに撮るの、ちょっと申し訳ない気分」
それもまた真だろう。どんなに美しい写真が撮れようとも、乗客数が伸びなければ経営は苦しくなる。最悪の場合、廃線に追い込まれる。そんなローカル線は過去にごまんとあった。
「じゃあ、一区間くらい乗るか? 車で追いかけてやるよ」
「ふふっ、それもありかも」
小さく微笑む。その微笑を、みずほはよく天使か女神のようだと形容するのだ。
「なんか、ひばりもみずほに似てきたな」
「そうかしら? さくらさんとみずほさんなんて、いつでも息ぴったりよ?」
「それはないだろ」
ケラケラと笑う。それから、雄大な自然美を見つめながら続けた。
「みずほもさ、なんか変わった気がするんだよな」
「そうなの?」
「そうだよ。幼馴染みだからこそわかるっていうかさ」
ハーッと大きく息を吐く。まだ白くなるには時期が早すぎるようだ。
「あいつ、昔から人付き合いは苦手でさ。自分から友達作ることなんかなくて。だからさ、ひばりとやけに仲良くなってるの、ちょっと意外なんだよな」
そよ風が吹いた。冷涼な風だった。
「ひばりと会って、あいつ変わった気がする。みずほと仲良くしてくれて、ありがとな」
「そんな……。そんなことはないわ。私の方こそ感謝してる。みずほさんもさくらさんも、私と仲良くしてくれて本当に嬉しいの」
遠慮気味にうつむいた。目を伏せると、まつげの長さがより強調される。
「それに、みずほさんを変えたのはさくらさんだと思うわ」
「私!?」
それは、あまりにもさくらの抱いていた思いとはかけ離れていた。
「いや、私はねえだろ。大体、子供の頃からずっと一緒だったんだぜ?」
「だとしてもよ。お2人は一度離ればなれになってるし。さくらさんともう一度会えたことが、みずほさんを変えたのよ。きっとそうだと思うわ」
「そ、そうかぁ?」
納得はいかないまでも、上手く反論することはできなかった。ひばりが笑顔を浮かべながら何かを述べたとき、決まって何も言い返すことができなくなるのだ。それは彼女の魔性の力なのか、はたまた別の力が働いているのか。定かではない。
ふと、遠くから警笛の音が聞こえた。ピーッという甲高い音。
「あら、ちょうど来たみたいね」
ひばりはファインダーの向こうの世界に集中した。その真剣な姿を、ただただ眺めることしかできない。
「ひばり……」
彼女に聞こえないように、小さく呟く。
「私のこと、買いかぶりすぎだよ」
小さく言葉を紡いだ瞬間、目の前の鉄橋を列車が走り抜けていった。
「ふわぁーあぁ」
運転席で大きくあくびをしながら伸びをしているのがさくら。朝早くから運転を続けていたので疲れているのだろう。今まさに仮眠から目覚めたばかりであった。
目薬を差して、外に目を向ける。三脚の隣に金髪をなびかせた美少女が立っていた。ひばりだ。どうやら彼女は、さくらが眠っている間にも撮影を続けていたらしい。
バタッとドアが開く。奥只見の空気は、流石に10月といえども涼しい。一気に目が覚めたような気分だ。
「おーい、ひばりー」
眠気を覚ますように、ブロンズヘアのもとへとのんびり向かう。
「あら、さくらさん。おはよう」
「ああ、おはよう。どう? 良い感じに撮れた?」
「ええ、ばっちりよ」
ひばりが視線を上げる。それを追いかけるように、さくらも眼前の景色に目を向けた。
針葉樹林がどこまでも視界を埋め尽くしている。緑から徐々に色づき始めた木々は、グラデーションを形成する最中という様相だ。
その中を手前から奥にかけて、雄大な只見川が貫いている。エメラルドグリーンに染まった水質は、奥多摩で見た多摩川の鮮やかな緑色を思い起こさせた。
その只見川を横切るように鉄橋がかかっている。第一只見川橋梁だ。
「晴れてて良かったな」
「ええ。でも、煙っていても幻想的だと思うわ」
それは言い得て妙かもしれない。霧が立ちこめる中を駆け抜ける列車というのも、実に写真映えするだろう。
「でも、私たち、全く只見線に乗ってないわね。折角全通したのに」
「仕方ねえじゃん。本数少ないんだからさ」
只見線に限らず、地方のローカル線はどうしたって運行本数が少ない。鉄道写真の撮影を考えれば、車で撮影ポイントに向かった方が利便性も高く、より多くの列車を収めることができるのだ。
「なんだか、みずほさんの気持ちがわかるわ。乗らずに撮るの、ちょっと申し訳ない気分」
それもまた真だろう。どんなに美しい写真が撮れようとも、乗客数が伸びなければ経営は苦しくなる。最悪の場合、廃線に追い込まれる。そんなローカル線は過去にごまんとあった。
「じゃあ、一区間くらい乗るか? 車で追いかけてやるよ」
「ふふっ、それもありかも」
小さく微笑む。その微笑を、みずほはよく天使か女神のようだと形容するのだ。
「なんか、ひばりもみずほに似てきたな」
「そうかしら? さくらさんとみずほさんなんて、いつでも息ぴったりよ?」
「それはないだろ」
ケラケラと笑う。それから、雄大な自然美を見つめながら続けた。
「みずほもさ、なんか変わった気がするんだよな」
「そうなの?」
「そうだよ。幼馴染みだからこそわかるっていうかさ」
ハーッと大きく息を吐く。まだ白くなるには時期が早すぎるようだ。
「あいつ、昔から人付き合いは苦手でさ。自分から友達作ることなんかなくて。だからさ、ひばりとやけに仲良くなってるの、ちょっと意外なんだよな」
そよ風が吹いた。冷涼な風だった。
「ひばりと会って、あいつ変わった気がする。みずほと仲良くしてくれて、ありがとな」
「そんな……。そんなことはないわ。私の方こそ感謝してる。みずほさんもさくらさんも、私と仲良くしてくれて本当に嬉しいの」
遠慮気味にうつむいた。目を伏せると、まつげの長さがより強調される。
「それに、みずほさんを変えたのはさくらさんだと思うわ」
「私!?」
それは、あまりにもさくらの抱いていた思いとはかけ離れていた。
「いや、私はねえだろ。大体、子供の頃からずっと一緒だったんだぜ?」
「だとしてもよ。お2人は一度離ればなれになってるし。さくらさんともう一度会えたことが、みずほさんを変えたのよ。きっとそうだと思うわ」
「そ、そうかぁ?」
納得はいかないまでも、上手く反論することはできなかった。ひばりが笑顔を浮かべながら何かを述べたとき、決まって何も言い返すことができなくなるのだ。それは彼女の魔性の力なのか、はたまた別の力が働いているのか。定かではない。
ふと、遠くから警笛の音が聞こえた。ピーッという甲高い音。
「あら、ちょうど来たみたいね」
ひばりはファインダーの向こうの世界に集中した。その真剣な姿を、ただただ眺めることしかできない。
「ひばり……」
彼女に聞こえないように、小さく呟く。
「私のこと、買いかぶりすぎだよ」
小さく言葉を紡いだ瞬間、目の前の鉄橋を列車が走り抜けていった。
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