婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第一部「ブレナード反逆編」

第12話:王都からの召喚と、裏切りの予兆

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朝、グランデ侯爵家の執務室にて。
 王都からの密使が届けた封書は、簡潔な文面だった。

 > 《グランデ侯爵ご夫妻へ。近日中に王都へ召喚する。詳細は別途、謁見にて通達する。王命に従うこと。》

 それは命令というより、“通告”だった。
 前置きも敬意も省かれた言葉には、王宮内の緊張をそのまま写し取ったような冷たさがあった。

 「……これは、“呼び出し”ではなく、“囲い込み”ですわね」

 私は手紙を置いて、アレクシスに目を向けた。

 「間違いない。“敵”は、既に王宮に入り込んでいる」

 アレクシスは冷静だった。だがその指先は、気づかぬうちに拳を握っていた。

 「……そして、君の実家――アルセリナ家が、動いた」

 「父が王宮に出入りするようなこと、これまで一度もありませんでした」

 私は胸の奥がざわつくのを感じながらも、姿勢を崩さなかった。

 「私を“王宮へ呼び出す”ための布石。それが父の訪問だったのでしょう」

 「君を政治の取引に利用するために?」

 「……ええ。もしくは、“疑惑の渦中に置く”ことで、グランデ家を揺るがせる意図も」

 アレクシスはしばらく沈黙したあと、ゆっくりと口を開いた。

 「……レイナ。王宮へは、僕ひとりで向かうこともできる。君が危険に晒される前に、切り離すことは可能だ」

 「却下ですわ」

 即答した私に、彼の眉がぴくりと動いた。

 「私が行かなければ、“隠し事をしている”と見なされる。私は、もう“令嬢”ではなく“侯爵夫人”ですもの。並んで立ちますわ。あなたと共に」

 しばしの沈黙。
 やがて、アレクシスはほとんど呆れるように笑った。

 「……君は、本当に恐れを知らないな」

 「あなたがいてくださる限り、恐れる理由なんてありませんわ」

 その言葉に、彼は小さく目を細めて言った。

 「それなら、なおさら君の側を離れたくないな」

 ふいに距離が縮まった。
 ソファに座る私の前にしゃがみ、彼は私の手をとった。

 「……もし、この先どんな選択を迫られようと、君を選ぶ。どんな立場も、名誉も、関係ない」

 「それは、契約外ですわよ?」

 「……あいにく、もう“契約”の話では済まされない」

 優しく、けれど深く交わされた視線。

 “守る”だけではなく、“並び立つ”ために。私たちは今、ようやく本当の夫婦になろうとしているのかもしれない。

* * *

 王都行きの馬車が手配されたのは、その翌朝。
 出発前、執事から小声で伝えられた。

 「アルセリナ伯爵家の執務官が、すでに王宮に入り浸っております。どうやら、レイナ様に関する“報告書”が複数提出された模様です」

 「……報告書? 私について?」

 「はい。“レイナ・アルセリナは、グランデ侯爵家の内情に不当に関与している”“政敵との縁故がある”“身辺に不穏な影がある”など」

 それを聞いた瞬間、私の頭にある人物の顔が浮かんだ。

 ――兄だ。

 アルセリナ家の長男、現伯爵家の後継。
 かつて私と距離を置き、冷静を装っていた彼が、今になって“敵”として立ちはだかる――そんな予感が走った。

 「……兄が、父の傀儡として動いているのなら」

 「ならば、“君の言葉”で正すしかない」

 アレクシスの声は静かだったが、どこか怒気を含んでいた。

 「このままでは、王宮において君の信用が失われる。そして、それはグランデ家の信用そのものに繋がる」

 私は頷いた。

 「覚悟はできていますわ。父にも、兄にも、そして“真実”にも向き合う覚悟は」

* * *

 王都。
 石畳を走る馬車が、王城の中庭に到着する。
 扉が開くと、そこには予想外の人物が立っていた。

 「……クラリッサ様?」

 エスティア伯爵夫人。社交界の観察者であり、アレクシスの遠縁。
 その瞳が、私とアレクシスを交互に見て、意味ありげに微笑んだ。

 「ようこそ王都へ。……“ここからが本番”ですわよ、レイナ」

 「……どういう意味ですの?」

 「もうすぐ、“あなたが生まれた家”の真価が問われます。――そのとき、あなたは何を選びますの?」

 その問いの意味も答えも、まだ見えなかった。

 けれど私は、アレクシスと手を取り合って歩き出す。

 何があっても、私たちは“過去の因縁”ではなく、“未来”を選ぶ。
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