婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第一部「ブレナード反逆編」

第13話:告発と誓約、血の証明

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王宮の謁見の間は、異様な沈黙に包まれていた。

 光を反射する大理石の床、絢爛な天蓋、そして重々しい玉座。
 その中央に立たされているのは――私だった。

 「レイナ・アルセリナ殿。そなたに問う。グランデ侯爵家に嫁いで以降、王政に不穏な影響を与えたとの報が届いておる。これを、どう釈明するか」

 玉座に座す老王は、形式的な口調で問いかけた。
 その隣には宰相代行、そして控える重臣たち。

 視線の中に、確かに“試すような色”があった。

 「王よ、その告発は事実無根でございます」

 私は静かに、しかし凛とした声で答えた。

 「私は侯爵家に入ってから一度たりとも、政治に私的に関与したことはございません。むしろ、身内であるアルセリナ伯爵家こそが、不穏な動きを見せております」

 「……証拠はあるのか?」

 その声は、列席していた一人の貴族から発せられた。
 顔を上げると、そこにいたのは――兄、ダミアン・アルセリナ。

 「妹よ。証拠もないのに実家を告発するのは、貴族として軽率ではないか?」

 その冷ややかな声音に、場内の空気がわずかに揺れた。

 けれど、私は一歩も引かなかった。

 「兄上。ではお尋ねします。なぜ、父上は正式な手続きを経ず、王宮に何度も“非公開で”訪れていたのです?」

 「それは……交渉のためだ。王家に忠誠を示し、旧家としての信頼を再構築するための」

 「では、その交渉とは? なぜ、その報告が一切、伯爵家からも王宮からもなされていないのか?」

 沈黙。

 兄は視線をそらした。その一瞬の隙を、私は逃さなかった。

 「告発いたします。アルセリナ伯爵家は、王政打倒を目的とする旧貴族連盟の一角と通じております。先代伯爵――つまり私の祖父は、グランデ家を含む王政支持派に対し、計画的な妨害工作を仕掛けていた証拠がございます」

 そう言って、私は手にした一枚の文書を掲げた。

 「これは、先代グランデ侯爵の遺した日記と、それに添えられていた文書の写しです。“あの家”と記された存在こそ、アルセリナであると。……これは、偽造でも何でもない、歴史の証明です」

 ざわつく貴族たち。
 その場にいた王の瞳が、細く鋭く光った。

 「……グランデ侯爵は、そなたと共にこの告発を行う意思を示しておるのか?」

 「はい」

 低く、しかし力強い声が広間に響いた。
 アレクシス・グランデ侯爵。
 彼は私の隣に歩み出て、正面を見据える。

 「王よ。私はすでに、この命をかけてレイナを妻に迎えました。血縁も立場も超えて、彼女と共に歩む覚悟を持っております」

 「ではそなた、彼女の“血”に関わる過去も、背負うというのか?」

 「ええ。どれほどの因縁があろうと、彼女は私の伴侶です」

 その言葉は、静かに、しかし決して揺るがぬ熱を持って響いた。

 王はしばし目を伏せ、そして――頷いた。

 「よかろう。そなたらの覚悟、確かに見届けた。レイナ・アルセリナは、グランデ侯爵夫人として今後も王政の場に立つことを許す」

 私は胸の奥から大きく息を吐いた。
 やっと、ひとつ――超えた。

* * *

 謁見の間を出たあと、私は中庭の片隅でアレクシスと並んで立っていた。
 陽の光が降り注ぐ中、風がそっと髪を撫でていく。

 「……あなたに、ずいぶん大きなものを背負わせてしまいましたわね」

 「僕は望んで背負った。……初めて、“自分の意志”で選んだ人だから」

 「契約なんて、とっくに形骸化していますわね」

 「なら、君に正式に訊こう」

 アレクシスは、ふと跪いた。
 私の手をとり、そっと口づける。

 「レイナ。これから先も、共に歩んでくれるか?」

 私は小さく笑って、囁いた。

 「……はい。ずっと、あなたの傍にいますわ」

 そう告げた瞬間、ようやく心の奥から“本物の夫婦”としての絆が芽吹いた気がした。

 けれど。

 その夜――グランデ邸に戻った私たちを待っていたのは、新たな報せだった。

 「侯爵様、夫人様。申し上げます……アルセリナ伯爵が、謁見の直後、消息を絶ちました」

 風が、凍るように止まった。

 ――血の証明は、まだ終わっていなかった。
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