婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

文字の大きさ
18 / 70
第一部「ブレナード反逆編」

第18話:暴かれた証言と、微笑む黒幕

しおりを挟む
王宮地下、尋問室。

 重厚な石造りの小部屋に、尋問官と王宮警護兵、そして私とアレクシスが立ち会っていた。
 対面の椅子に縛られたのは、王宮副長・バルド。
 かつて王の身辺を補佐してきた忠臣の名を、今や誰も口にしなくなっていた。

 「……レイナ・アルセリナ。君は本当に、強くなった」

 目の下に隈を浮かべた男が、皮肉げに笑った。
 だが私は冷たい視線を崩さなかった。

 「あなたが私の命を狙う“協力”をしたと聞いて、強くならずにいられますか?」

 アレクシスが短く口を開いた。

 「言え、バルド。何の見返りで、ブレナード家に通じた?」

 沈黙。
 そして、短いため息。

 「……忠誠だよ」

 「王への?」

 「いいや。“王家”ではない。“国家”への忠誠だ」

 彼の声は、まるで信仰を語るかのようだった。

 「王政は腐りかけていた。貴族の傀儡、民の声も届かず、ただ古き名門が栄える体制――ブレナードは、それを正すと言った。……真の革命だと」

 「そのために、命を奪っても?」

 「“犠牲”なくして変革はない」

 私は歯を食いしばった。
 父が犠牲になり、私が標的にされ、今なお誰かが“正義”と呼ぶ仮面の下で命を奪われようとしている。

 「父はどこに?」

 「……生きている。だが、“口を開けば”消される立場だ。私に言えるのはそこまでだ」

 アレクシスの剣が鞘の中でわずかに鳴った。
 尋問官が制止する。

 「これ以上の尋問は王妃陛下の許可を。ですが、確かに“協力者”の証言は得られました。これで“証拠”は整います」

 私たちは部屋を後にした。
 その背に、バルドの嗤う声が響いた。

 「……君たちは、“王家の内側”をまだ知らない。気をつけることだ、侯爵夫妻」

* * *

 その日の午後。

 王妃陛下の執務室で、私たちはこれまでの証拠と証言を報告した。

 「……ブレナード家は、まことしやかに改革を唱えつつ、実のところ“王位簒奪”の準備を進めていたのでございます」

 私がそう口にすると、王妃は静かに目を閉じて頷いた。

 「陛下も、既にその可能性には気づいておりました。だが……内部に協力者がいる以上、表立って動けなかった」

 「ならば、我々が動きます」

 アレクシスが一歩前に進む。

 「王宮の“清浄”のため、正式に我が家に“粛清の任”をお与えください。ブレナードの陰謀を阻止し、王政を正す剣として」

 王妃は瞳を開いた。

 「……その覚悟、しかと見届けました。レイナ・アルセリナ。そして、アレクシス・グランデ。王家はあなた方に正式に“討伐の命”を託します」

 静かに、印章の押された文書が差し出される。
 それは、政治的な意味において、“戦争の開始”を意味していた。

* * *

 その夜。

 ブレナード家の私邸にて。
 エレーヌ・ブレナードは、一通の書簡を手にしていた。

 > 《副長、捕縛。供述あり。王家は動き出す》

 それを読み終えたあと、彼女は何事もなかったかのように微笑んだ。

 「……では、“次”の計画に移りましょう」

 傍らに控える男が頭を下げる。

 「すでに、“彼女”は王都に入りました。公爵家筋を名乗っており、誰も疑っておりません」

 「よろしい。もう“アルセリナ”の名は不要。次は“王妃の座”そのものを――奪ってみせます」

 蝋燭の火が、パチパチと音を立てる。

 その炎の中で、エレーヌは微笑みながら静かに囁いた。

 「さあ、“正義”を知らぬ者たちに、革命の口づけを」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

処理中です...