婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第三部「継ぐ者の光、試される未来」

第12話:少女たちの学び舎にて

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 「――わたしたちのところに、“ほんとうの詩人”が来てくれるなんて!」

 王都郊外、静かな丘の上に建つセリディア女学院。

 文学教育に力を入れるこの女学院では、年に一度、
 “若手作家を招く朗読と対話の午後”という文化交流行事が開かれていた。

 今年の招待は、詩人・エリア・グランデ。

 それを聞いた女学生たちは、事前に彼女の詩集を読み込み、
 当日を今か今かと待ち構えていた。

* * *

 講堂に入った瞬間、エリアは少しだけ息を呑んだ。

 ――自分と同じ年頃、あるいは少し年上の少女たちが、真剣な眼差しでこちらを見つめている。

 「詩を書きたい」「言葉で何かを伝えたい」と思う少女たちの瞳は、
 かつて“ただ怖がっていた頃の自分”とは、まるで違っていた。

 けれど、その真剣さに、どこか懐かしさも感じた。

 (ああ……わたし、“ここ”から始まっていたんだ)

 壇上に立ったエリアは、深く一礼した。

 「こんにちは。詩人の、エリア・グランデです。
  今日は、“皆さんと話すため”に来ました」

* * *

 朗読が始まる。

 読むのは、彼女が最近書き上げた新作詩。

 > 『ふあんとやさしさ』
 >
 > ふあんは こえをけしてくる
 > でも やさしさは こえをきいてくれる
 >
 > こわいときこそ
 > だれかのことばが あかりになる
 >
 > わたしも だれかのあかりに なれたらいいな

 読み終えたあと、講堂にはしんとした静けさが広がった。

 でもその沈黙は、“響かなかった”ものではなく――
 “言葉を受け止めた”静けさだった。

 やがて、控えめな拍手が波紋のように広がり、講堂全体を包んだ。

* * *

 その後の質疑応答では、少女たちが次々と手を挙げる。

 「どうして、“剣じゃなくて詩”を選んだのですか?」
 「詩を書くとき、誰のことを考えていますか?」
 「わたし、いちばん好きな詩は“ちいさな剣”です!」

 その声に、エリアは自然と笑みを浮かべる。

 「……たぶん、わたしはずっと“こわがり”だから。
  だから、誰かを傷つけない方法で、“守る”ってことがしたかったんです」

 「守るための“詩”なんですね」

 「ええ。そして今、わたしは皆さんの中に、“これから詩を書く人”がいるって信じてます」

 その言葉に、一人の少女が手を挙げた。

 彼女は緊張で頬を赤らめながら、小さな声でこう言った。

 「わたし……実は、自分で詩を書いてます。
  でも、誰にも読ませたことがないんです。
  わたしの“声”なんて、誰にも届かないって思ってて……」

 エリアは壇上から静かに歩き、彼女の前にしゃがんだ。

 「その気持ち、よくわかります。
  でも、“届くかもしれない”って、信じてみたことはありますか?」

 「……ないです」

 「じゃあ、今日が最初の一歩になるかもしれない。
  “届いたらいいな”って願いを持てたら、きっと言葉は歩き始めるから」

 少女は、小さく頷いた。

* * *

 その帰り道。

 馬車の中で、エリアは母・レイナと並んで座っていた。

 「……あの女の子、少しだけ昔のわたしに似てました」

 「ええ。だからあなたは、あの子の“あかり”になったのよ」

 「わたし、もっと書きたい。
  “読む人”がいるって、こんなにあたたかいんだって思ったから」

 レイナは娘の手を握る。

 「あなたの“剣”は、今日もちゃんと誰かの心を守ったわ」
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