婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第三部「継ぐ者の光、試される未来」

第17話:言葉のむこうで、わたしたちは出会った

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 「……会ってくれるって」

 詩学局の補佐官が笑いながら告げたその言葉に、エリアはほんの少し、息を詰めた。

 (ミルさんに……会える)

 あの、名も書けなかった少女が。
 やさしい言葉を“こわい”と言った、あの人が。
 今、“目を見て話す”ことを選んでくれた。

* * *

 出会いの場は、王都郊外の小さな読書室。

 午後の光が差し込むガラス窓。
 季節は秋に入り、外の木々は少しずつ赤く染まり始めていた。

 先に到着したエリアは、心を落ち着けようと詩集を開いていたけれど、
 ページの文字は目に入らなかった。

 そして――

 「……こんにちは」

 小さく、透き通った声。

 顔を上げると、そこには
 ミルと名乗った少女が立っていた。

 栗色の髪を二つ結びにした、ほっそりとした女の子。
 緊張で手の指を少しだけ絡めながら、けれど真正面からエリアを見ていた。

 「ミルさん……?」

 「……うん。ミルです。やっと、名前を言えました」

 その言葉に、エリアは自然と立ち上がって歩み寄り、そっと手を差し出した。

 「はじめまして。“詩人”の、エリアです」

 「はじめまして。“ただの少女”の、ミルです」

 ふたりは、ゆっくりと、でも確かに、手を握り合った。

* * *

 その後、読書室の一角で、二人は向かい合って座った。

 話題は、互いの詩のこと。
 家庭のこと。
 そして、「声にすること」の怖さと、嬉しさについて。

 「……最初、エリアさんの詩がまぶしくて、
  わたし、ちょっと憎らしいって思ったんです」

 「うん。わたしも昔、誰かの言葉がまぶしくて、
  “こんなふうに書けたらいいのに”って泣いたことあるよ」

 「……同じなんですね、やっぱり」

 「きっと、書く人はみんな、どこかで“届かなくて苦しんだ人”なんだと思う」

 言葉にした瞬間、ふたりのあいだに静かな共鳴が走った。

 名を知らずに重ねてきた往復の詩。
 文字では伝えきれなかった、まなざしの温度。

 今、それが確かに、目の前にあった。

* * *

 日が傾き、帰りの時間が迫ったころ。

 ミルがふと、鞄からノートを取り出した。

 「今日、会えるって知ってから……詩を一つ書いてきたの。
  読んでもらっていい?」

 エリアは黙って頷いた。

 > 『はじめましての詩』
 >
 > ことばを先に知って
 > 名前をあとから知った
 >
 > それなのに どうして
 > こんなに 前から しってた気がするんだろう
 >
 > わたしは あなたのことばに
 > 自分の声を見つけた
 >
 > だから今日は やっと言える
 >
 > はじめまして――
 > わたしも、詩を書く人です

 エリアの頬に、涙が一粒だけ零れた。

 「……ようこそ、“詩を書く人”の世界へ」

 そう言って、ふたりはまた、手をつないだ。

* * *

 その夜。

 レイナに報告しながら、エリアは言った。

 「お母様。わたし、“友達”って言葉を、
  詩じゃなくて“口で言いたくなる人”に出会いました」

 レイナは、静かに微笑んだ。

 「ええ。言葉じゃ足りない想いは、きっと“生きている証”なのよ」
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