婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第三部「継ぐ者の光、試される未来」

第18話:詩がつなぐ、小さな輪

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 「じゃあ、“名前はまだないけど、詩を書きたいひとの会”にしようよ!」

 そう言って笑ったのは、ミルだった。

 セリディア女学院の空き教室に集まった五人の少女たち。
 エリアとミルを中心に、詩を“読むだけだった”女の子たちが、今、“書いてみようかな”と集まっていた。

 “詩人”でなくてもいい。
 うまくなくてもいい。
 名前を出さなくてもいい。

 ただ、心の中にある声を出してみよう――

 そんな空気のなかで生まれた、小さな詩のサークル。

 それは、王都で最も静かで、でも最も真剣な“文学の輪”だった。

* * *

 「わたし、この詩を書いたとき、すっごく緊張してて……」

 一人の少女、ユーリが紙を広げる。

 > 『わすれていた声』
 >
 > なにも言えない日のこと
 > だれにもきかれない夜のこと
 >
 > それでも ここに書いたら
 > すこし 自分がいた気がした

 読み終えたとき、部屋には沈黙が落ちた。

 でもそれは、“言葉を受け止めた”静けさだった。

 「……すごく、やさしい詩だね」

 そう言ったのはミルだった。

 ユーリは顔を赤くして、「ありがとう」と小さな声で返した。

* * *

 その夜、エリアとミルは屋敷の書斎で、共同の詩集企画を進めていた。

 タイトル案は――『こえのまえ、こえのあと』。

 詩を「声の手前で書いた子」と「書いたあとに変わった子」たちの作品を集める構成。
 プロの詩人ではなく、“届かせようと思って書いた少女たち”の言葉が並ぶ本。

 「お母様、わたしたち、これを“売りたい”んじゃなくて、“残したい”の」

 「“声が確かにあった”って、記録したいだけなんです」

 レイナはふたりの目を見て、頷いた。

 「ええ、もちろん。“国が動かす教育”ではなく、“少女たちが動かした記憶”として残しましょう」

* * *

 一方、王宮の書記室では、王妃と数名の議員が“ある報告書”を前に対話をしていた。

 > 《子どもたちの詩活動に、明確な指導者を立てるべきか》
 > 《“思想形成への影響”に対し、王政として一定の基準を設ける必要は?》

 王妃は報告書を閉じ、静かに首を振った。

 「“声を持っていい”と教えたのに、“どう持つかを制限する”のは矛盾です。
  わたくしたち大人がすべきなのは、“声を聞く”ことです」

 ある議員が問う。

 「では、もしその声が、いずれ王政を批判するような言葉になったら?」

 王妃の答えは、澄んでいた。

 「それでも聞きましょう。
  なぜなら、子どもたちはまだ“叫ぶ前に伝えようとする言葉”を知っているからです」

* * *

 翌朝。
 詩の輪では、新たな子が加わった。

 「わたし……名前はまだ書けないけど、書きたい詩があって」

 エリアは微笑んで頷いた。

 「いいよ。詩は名前より先に歩いていいものだから」

 少女は紙を差し出し、震える声で読み上げた。

 > 『はじめての紙』
 >
 > ことばを なげてみた
 > そらに にじむように
 >
 > そっとかえってきた “それでもいいよ”の声
 >
 > わたし ここにいていいんだと
 > はじめて 紙が教えてくれた

 “ことばが紙を超えて、ひとをつなぐ”。

 その場にいた誰もが、確かにそれを感じていた。
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