婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第三部「継ぐ者の光、試される未来」

第22話:ことばの海、ひらく朝

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王都中央文芸会館。
 石造りの高い天井と、光を通す薄緑のガラス窓。
 普段は格式ある議会や式典に使われるこの空間に、今朝は――

 詩が貼られていた。

 壁にも柱にも、木製パネルにも、テーブルにも。
 書かれた紙、手帳の切れ端、刺繍に仕立てた詩、ペンで布に書いたものさえある。

 文字は揃っていない。
 行間もバラバラ。
 それでも――それぞれの詩は、**「ことばの海」**としてそこにあった。

 > 「ようこそ。今日だけは、詩が国を決めます」

 会場入り口の黒板に、白チョークで書かれたその一文を見て、
 子どもたちも、大人たちも、言葉を忘れたように見つめていた。

* * *

 開会式に“式辞”はない。
 代わりに、一篇の無名詩が朗読されるだけ。

 その選定をしたのはミルだった。

 少女が、準備期間中に読んだ中で“いちばん泣いた”詩。
 名前も、年齢も、どこの誰かも分からない、ただの封筒に入っていた紙。

 > 『まちがえても うまれても』
 >
 > わたしは まちがって うまれたのかも
 >
 > でも だれかが “いていいよ”といった
 >
 > それを “うまれてよかった”にしたくて
 >
 > だから きょうも こえをだした

 会場の中央に立ったミルは、震える声でその詩を読んだ。

 読み終えたあとの拍手は、なかった。
 誰も音を立てなかった。
 ただ静かに、誰もが**“何かを受け取った”**目をしていた。

* * *

 詩の海を歩く少女たちのなかに、一人の子がいた。

 彼女の名はセレナ。
 かつて“書くのが怖い”と感じていた、王都外れの農家の娘。

 そして、彼女の足が止まった先にあったのは――

 > 『さいしょのままの声で』/ミル・リース

 丁寧に手書きされたその詩。
 文章に飾りはない。ただ、胸にまっすぐ刺さる。

 セレナは思わず、そばにいた係員に尋ねた。

 「この詩を書いた人って、いますか?今、ここに」

 その声は、明らかに泣きそうだった。

 詩は、“書くことができない”と思っていた彼女に、
 「ここにいていいよ」と語っていた。

* * *

 一方、エリアは展示場の奥で、各所から寄せられた詩を点検していた。

 主催側として。
 責任者として。

 けれどその途中で――

 「……わたし、“詩人”として、この場にいられてるかな」

 ぽつりとこぼしたその問いに、背後から声が返る。

 「いられてるよ。
  あなたの“こたえない詩”が、今日いちばんたくさん貼られてる」

 それは、かつて“ただの少女”だったミルの声だった。

 エリアは、ゆっくりと詩集を開き、読み上げる。

 > 『こたえなくていい』
 >
 > きいてくれて ありがとう
 >
 > こたえがなくても よかったの
 >
 > わたしは ただ
 > “きかれてる”って 感じたかったから

 その詩に、数人の子どもたちが足を止めていた。
 詩が語る“声の気配”に、確かに耳を澄ませていた。
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