婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第三部「継ぐ者の光、試される未来」

第23話:あなたの詩で、わたしは書けた

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展示スペースの隅で、セレナは震える手で紙を握りしめていた。

 ――「この詩を書いた人に、会いたい」

 受付にそう告げることすら、勇気のいる行為だった。
 けれど今、彼女はそれ以上のことをやろうとしていた。

 “自分でも、詩を書いてみたい”

 それは、ほんの少し前まで、考えたこともなかった感情。

 展示されていたミルの詩。

 > 『さいしょのままの声で』
 >
 > わたしは まだうまく書けない
 > ……
 > あなたに 「ここにいるよ」と言いたい

 この一文に、セレナは自分の居場所を見た。

 “書けなくても、いていい”――そう語りかけてくれた気がしたから。

* * *

 その日の午後。

 祭の片隅に設けられた「自由投稿コーナー」には、次々と詩が貼られていた。

 その中に、小さな文字で書かれた詩がひとつ、混じっていた。

 作者名:セレナ(初めて書きました)
 タイトル:『わたしのはじまり』

 > わたしは だれかに ならなきゃって思ってた
 >
 > うまく話せなくて
 > うまく笑えなくて
 >
 > でも “ことば”は わたしに言ってくれた
 > 「そのままの声で いいんだよ」って
 >
 > はじめて 書けた
 > わたしの はじまりのことば

 投稿箱に貼られたその詩を、誰より先に見つけたのは――ミルだった。

 (……この詩、わたしに向けて書いてくれたの?)

 彼女はしばらく、何も言えずにその紙を見つめていた。
 でも、胸の奥で確かに何かが灯った。

 「……ありがとう。わたしの詩が、だれかの“最初”になれたんだね」

* * *

 一方、エリアは王政文化庁の来賓席で、ある貴族議員の視線を感じていた。

 「詩は美しいですが、これは秩序ある声ですか?」

 その声は静かだったが、明らかに警戒を含んでいた。

 エリアは、すぐには返事をしなかった。

 けれど、やがてこう答えた。

 「“秩序”って、守ることも大事だけど、
  誰かが“自分の言葉”を持ち始める瞬間を、邪魔しないことも“秩序”だと思います」

 その言葉に議員は一瞬沈黙し、やがて立ち去った。

 (……まだ、この波が全員に歓迎されるわけじゃない)

 けれど、エリアの胸の中には、確かな確信があった。

 (それでも、“はじめて書けた詩”が生まれたこの日を、誰も否定できない)

* * *

 その日の終わり。

 ミルは展示されたセレナの詩の前に、小さな返詩カードを置いた。

 > 『はじまりをくれたあなたへ』
 >
 > あなたのことばで
 > わたしも また書けました
 >
 > ありがとう
 >
 > これは あなたが“わたしの声を守ってくれた”詩です

 こうして、一編の詩が――また一編の詩を生んだ。

 それは、小さな海に浮かんだ**“ことばの舟”**だった。
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