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第三部「継ぐ者の光、試される未来」
第29話:声で答えるということ
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「詩で答えるなど――前例がありません」
そう苦々しく言ったのは、王政文化庁の古参議員だった。
けれど、その“前例のなさ”こそが、今日の議場に必要なものだった。
レイナはゆっくりと席を立ち、
壇上に置かれた演説台へと進む。
その手には、一冊の詩集。
娘の名が記された――『こえのまえ、こえのあと』。
彼女が朗読したのは、エリアがかつて匿名で寄せた初期の一篇。
> 『だれかのまえに』
>
> こたえは いつも遅れてやってくる
>
> でも 問いかけたということが
> “だれかが そこにいた”証になる
>
> だから わたしは 今日も書く
> こたえの すこし まえにいる誰かのために
読み終えたあと、議場に沈黙が流れた。
レイナは、ゆっくりと語りかけるように口を開く。
「これは、少女が“書いてもいい”と信じた最初の声です。
私たち大人が、これを“制度の外”と切り捨てるならば、
この国に未来はありません」
「詩は、政策ではなく、体温で届くことばです。
そして、体温を受け取れない政治は、やがて民の息遣いを失います」
その言葉に、議席の一角で王妃が深く頷いた。
「……だから私は、詩に答える政を望みます。
“統治”ではなく、“共に生きる”という政を」
* * *
その頃、詩学局ではセレナとルディが並んで机に向かっていた。
「ねえ……詩って、誰かに読まれた時点で、もう自分だけのものじゃないよね」
セレナがぽつりとつぶやくと、ルディが小さく笑った。
「そうだね。
でも、それで“読んだ人の中に残る”なら、それもまた嬉しい」
「……うん。わたし、もう“自分のためだけ”には書けないかもしれない」
セレナはそう言って、ノートの最終ページにこう書いた。
> 『届けてくれて、ありがとう』
>
> あなたが 読んでくれたことで
> わたしの声は 声になれた
>
> 書いただけじゃ 言葉じゃなかった
>
> あなたが 目を通してくれたから
> わたしは “誰かになれた”
ルディはその詩を見て、黙ってそばに座り直した。
何も言わず、ただ肩が少しだけ触れるくらいの距離で。
それで、十分だった。
* * *
夜。
王政庁の報道室では、今日の議会内容が速報として記された。
> 《王政史上初、“詩による答弁”を実施》
> 《レイナ元政務参与、王妃陛下と共に詩を擁護》
> 《制度案、再検討へ。審議延期決定》
政が、一つの詩に耳を傾けた瞬間だった。
* * *
そして、詩学局の裏庭。
エリアとミルは肩を並べて空を見ていた。
「今日、お母様がわたしの詩を読んでくれたの。
議場で、正式に」
「……知ってる。わたしも聞いてた」
ふたりは顔を見合わせて笑う。
「あなたの詩が、国に届いたね」
「ううん。
“わたしたちの詩”が、これから誰かの声になるんだよ」
そう苦々しく言ったのは、王政文化庁の古参議員だった。
けれど、その“前例のなさ”こそが、今日の議場に必要なものだった。
レイナはゆっくりと席を立ち、
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その手には、一冊の詩集。
娘の名が記された――『こえのまえ、こえのあと』。
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>
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>
> でも 問いかけたということが
> “だれかが そこにいた”証になる
>
> だから わたしは 今日も書く
> こたえの すこし まえにいる誰かのために
読み終えたあと、議場に沈黙が流れた。
レイナは、ゆっくりと語りかけるように口を開く。
「これは、少女が“書いてもいい”と信じた最初の声です。
私たち大人が、これを“制度の外”と切り捨てるならば、
この国に未来はありません」
「詩は、政策ではなく、体温で届くことばです。
そして、体温を受け取れない政治は、やがて民の息遣いを失います」
その言葉に、議席の一角で王妃が深く頷いた。
「……だから私は、詩に答える政を望みます。
“統治”ではなく、“共に生きる”という政を」
* * *
その頃、詩学局ではセレナとルディが並んで机に向かっていた。
「ねえ……詩って、誰かに読まれた時点で、もう自分だけのものじゃないよね」
セレナがぽつりとつぶやくと、ルディが小さく笑った。
「そうだね。
でも、それで“読んだ人の中に残る”なら、それもまた嬉しい」
「……うん。わたし、もう“自分のためだけ”には書けないかもしれない」
セレナはそう言って、ノートの最終ページにこう書いた。
> 『届けてくれて、ありがとう』
>
> あなたが 読んでくれたことで
> わたしの声は 声になれた
>
> 書いただけじゃ 言葉じゃなかった
>
> あなたが 目を通してくれたから
> わたしは “誰かになれた”
ルディはその詩を見て、黙ってそばに座り直した。
何も言わず、ただ肩が少しだけ触れるくらいの距離で。
それで、十分だった。
* * *
夜。
王政庁の報道室では、今日の議会内容が速報として記された。
> 《王政史上初、“詩による答弁”を実施》
> 《レイナ元政務参与、王妃陛下と共に詩を擁護》
> 《制度案、再検討へ。審議延期決定》
政が、一つの詩に耳を傾けた瞬間だった。
* * *
そして、詩学局の裏庭。
エリアとミルは肩を並べて空を見ていた。
「今日、お母様がわたしの詩を読んでくれたの。
議場で、正式に」
「……知ってる。わたしも聞いてた」
ふたりは顔を見合わせて笑う。
「あなたの詩が、国に届いたね」
「ううん。
“わたしたちの詩”が、これから誰かの声になるんだよ」
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