婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第三部「継ぐ者の光、試される未来」

最終話:ことばの終わり、はじまりの声

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春の風が、詩学局の庭をふわりと通り抜ける。

 その風に乗って、誰かが落とした詩の紙が一枚、空を舞った。
 ひらり、ひらり――
 詩は、誰かの声そのもののように、行き先を決めずに漂っていた。

 その様子を見上げながら、エリアは小さくつぶやいた。

 「……言葉って、すごいよね。
  どこにも届かなくても、ちゃんと“そこにあった”ってわかる」

 ミルは隣で笑った。

 「うん。“届かなかった詩”なんて、本当はないのかもしれない」

 ふたりの手は、自然と重なっていた。
 それは恋と呼ぶにはまだ曖昧で、友情と呼ぶには少しだけ特別で。
 でも、詩と同じように“伝わった”ことだけは確かだった。

* * *

 詩学局の卒業式。

 セレナとルディは、それぞれの原稿箱を閉じ、手渡す準備をしていた。

 「この先、わたしが書く詩は、もう“ただの手紙”じゃなくなるかもしれない」

 セレナがそう言うと、ルディは微笑んで首を振る。

 「それでも、君が誰かに向けて書く限り――
  その詩は、きっと“誰かの声”になるよ」

 そして、ふたりはそれぞれの小さな詩集を交換し合った。
 表紙に名前は書かれていない。
 ただ、「声をもらった者が、それを返したいと思ったときに開く詩」が詰まっていた。

 「また、言葉で会おうね」

 「うん。言葉で、ちゃんと」

* * *

 その頃、王政議会では制度改正案の再審議が延期となり、
 “詩の提出に身元を添える義務”は**「本人の希望により任意」**へと変更された。

 王妃は、空席の広間を見つめてぽつりとつぶやく。

 「……ことばで争うこともあるけれど、
  争わずに“伝えようとした詩”は、やっぱり守られたのね」

 レイナは頷く。

 「言葉を信じる子どもたちがいたから、
  私たちも“信じる大人”でいられたのだと思います」

* * *

 夜の詩学局。
 誰もいない講堂に、エリアとミルの声がそっと響く。

 「ねえ、ミル」

 「なに?」

 「これからも、“こたえ”を探しながら書いていこうね。
  こたえきれなくても、届かなくても……それでも、書きたいから」

 ミルは笑って、静かに言う。

 「うん。だって、
  わたしたちはもう、“ことばで生きていける”って知ってるから」

 ふたりは、その場で一緒に一枚の詩を書いた。

 > 『はじまりの声』
 >
 > 終わったと思ったとき
 > あたらしい言葉が 心にうまれた
 >
 > それは たぶん
 > まだ“名前のない未来”の声
 >
 > わたしたちは その声を
 > だれかに つないでいく

 ことばの終わりは、誰かの“はじまり”になる。
 そうして今日も、静かに詩は生まれ続けていくのだった。

【完】
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