『推しに転生したら、攻略対象が全員ヤンデレ化した件』

第8話『本命ルート、選択します』

「……私、決めたの」

そう言った瞬間、空気が静かになった。

目の前には、私を“本気で愛してしまった”四人の男たち。
王太子・クラヴィス。
騎士団長・レオン。
魔導師・ユリウス。
そして、隠しルートの従者・ゼクス。

みんな私を見つめていた。
言葉にしないまま、選ばれることを祈っていた。

──でも、私は思う。

この中の誰か一人を選ぶことは、
残りの三人を“壊す”ことでもあるかもしれない。

（それでも、私は決めなきゃいけない）

ずっと“推す側”だった。
でも今は──“推される側”として、ちゃんと向き合いたい。

「……私が選ぶのは──」

そこまで言いかけた瞬間。

──ガクン。

世界が、揺れた。

「……えっ？」

目の前が、にじむ。
足元が崩れるような感覚。
空間が、強制的に巻き戻されていく。

「だめ、やめて……やっと選べたのに！！」

だけど、身体が勝手に浮かぶ。

そして、聞こえてきた。

『選択は完了していません。シエル＝フェリシア、再起動します』
『次の“愛されルート”を準備中です』
『選択肢：リセット ／ 継続 ／ 多重分岐』

（なにこれ……）

画面のようなUIが、空中に浮かぶ。
そこには、かすれた文字でこう表示されていた。

『これは恋愛ゲームではありません。
これは、君の“感情データ”を採取する実験です。』

（……は？）

『記録完了。次のループを開始します』

──世界が、白く、弾けた。

＊　＊　＊

──気がつくと、私はまた、
あのゲームの“オープニング画面”の中にいた。

クラヴィスが微笑む。
レオンが手を差し伸べる。
ユリウスが静かに見つめる。
ゼクスが、背後から囁く。

「……また最初から、だね。
　でも今回は……君は誰を“本気で愛する”のかな？」

その言葉に、私は震えた。

（もしかして──）

──私、何度も繰り返してる？

そう思った瞬間、スマホのようなウィンドウが浮かんだ。

『現在：ループ024』
『好感度統計を更新しました』
『感情バランス：臨界点間近』

（……嘘でしょ……私、ずっと、繰り返してたの……？）

“推し”に転生したはずの私の人生は──
誰かが設計した、ループ型恋愛実験プログラムの中だった。