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第十九話:仮面の聖女と、政略の指輪
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「……まるで、絵から抜け出したようね」
そう評されたのは、
本日初めて公式の場に姿を現した“新たな聖女候補”――マリア・ヴェステリア嬢。
白銀の髪に蒼い瞳、純白の礼装。
一挙手一投足に品と優しさを漂わせ、
民の前では、まるで“女神”のように笑っていた。
「皆様の痛みに寄り添い、祈りを捧げるのが、私の役目ですの」
その声は柔らかく、澄んでいて。
けれど――
(……笑ってるその目、まったく笑ってない)
私、エリス・アルメリアの目は、ごまかせなかった。
これは、“本物の人たらし”。
王妃派が送り込んできた、本気の刺客だ。
「エリス様、マリア様と並ばれますか?」
「ええ。比較されることが目的でしょうし、逃げる理由もないもの」
民の前に並び立つ、ふたりの“聖女”。
片や、神託によって選ばれた冷静で強き存在。
片や、完璧な仮面で人々の共感をさらう天使のような少女。
その構図は、まるで“どちらが本物の聖女か”と問うかのようだった。
――だが、その勝負はこの時点でまだ、始まったばかりだった。
* * *
「……今日は、もう政務の予定はありません。
少しだけ、歩きませんか?」
私の部屋を訪ねてきたのは、ユリウスだった。
久しぶりに鎧を脱ぎ、平服姿で。
その横顔はどこか柔らかくて、懐かしい。
ふたりで歩いた庭園の隅。
木陰のベンチに腰掛け、ふと空を見上げる。
「……ユリウス。
あなたは私が“誰かの隣に立つ未来”を選んだら、どう思う?」
彼は一度だけ瞬きをして、微笑んだ。
「……痛いでしょうね。でも、あなたの幸せなら、受け止めるしかありません」
「……ずるい」
「え?」
「ずっと私を見てくれてるのに、自分のことは見せてくれない。
それが、ずるいのよ」
沈黙が落ちる。
けれど、その距離は――確実に近づいていた。
* * *
その夜。
政務棟の一室で、ジルベルトが私に一通の封筒を手渡してきた。
「……これは?」
「同盟契約書。
王家と神託庁、そして僕と君――その未来を繋ぐ正式な“婚姻前提の同盟”」
目を疑った。
けれど、彼の瞳は真剣だった。
「政略の皮を被った、“本心”だよ。
僕は君と生きたい、共にこの国を変えたい――ただ、それだけだ」
「……私はまだ、誰の手も取る覚悟が――」
「わかってる。
でも、君が迷う理由を一つずつ消すためなら、
僕はいくらでも手を差し出す」
ジルベルトの指が、私の手の甲をそっとなぞる。
「この指に、いつか指輪が似合う日が来ると信じてる」
選ぶべきは、“国の未来”か、“ひとりの心”か。
私の答えは、まだ出ていなかった。
けれどその夜、私は眠れなかった。
仮面の聖女が微笑み、
ユリウスの温もりが残り、
ジルベルトの言葉が、胸を占めていたから。
そう評されたのは、
本日初めて公式の場に姿を現した“新たな聖女候補”――マリア・ヴェステリア嬢。
白銀の髪に蒼い瞳、純白の礼装。
一挙手一投足に品と優しさを漂わせ、
民の前では、まるで“女神”のように笑っていた。
「皆様の痛みに寄り添い、祈りを捧げるのが、私の役目ですの」
その声は柔らかく、澄んでいて。
けれど――
(……笑ってるその目、まったく笑ってない)
私、エリス・アルメリアの目は、ごまかせなかった。
これは、“本物の人たらし”。
王妃派が送り込んできた、本気の刺客だ。
「エリス様、マリア様と並ばれますか?」
「ええ。比較されることが目的でしょうし、逃げる理由もないもの」
民の前に並び立つ、ふたりの“聖女”。
片や、神託によって選ばれた冷静で強き存在。
片や、完璧な仮面で人々の共感をさらう天使のような少女。
その構図は、まるで“どちらが本物の聖女か”と問うかのようだった。
――だが、その勝負はこの時点でまだ、始まったばかりだった。
* * *
「……今日は、もう政務の予定はありません。
少しだけ、歩きませんか?」
私の部屋を訪ねてきたのは、ユリウスだった。
久しぶりに鎧を脱ぎ、平服姿で。
その横顔はどこか柔らかくて、懐かしい。
ふたりで歩いた庭園の隅。
木陰のベンチに腰掛け、ふと空を見上げる。
「……ユリウス。
あなたは私が“誰かの隣に立つ未来”を選んだら、どう思う?」
彼は一度だけ瞬きをして、微笑んだ。
「……痛いでしょうね。でも、あなたの幸せなら、受け止めるしかありません」
「……ずるい」
「え?」
「ずっと私を見てくれてるのに、自分のことは見せてくれない。
それが、ずるいのよ」
沈黙が落ちる。
けれど、その距離は――確実に近づいていた。
* * *
その夜。
政務棟の一室で、ジルベルトが私に一通の封筒を手渡してきた。
「……これは?」
「同盟契約書。
王家と神託庁、そして僕と君――その未来を繋ぐ正式な“婚姻前提の同盟”」
目を疑った。
けれど、彼の瞳は真剣だった。
「政略の皮を被った、“本心”だよ。
僕は君と生きたい、共にこの国を変えたい――ただ、それだけだ」
「……私はまだ、誰の手も取る覚悟が――」
「わかってる。
でも、君が迷う理由を一つずつ消すためなら、
僕はいくらでも手を差し出す」
ジルベルトの指が、私の手の甲をそっとなぞる。
「この指に、いつか指輪が似合う日が来ると信じてる」
選ぶべきは、“国の未来”か、“ひとりの心”か。
私の答えは、まだ出ていなかった。
けれどその夜、私は眠れなかった。
仮面の聖女が微笑み、
ユリウスの温もりが残り、
ジルベルトの言葉が、胸を占めていたから。
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