婚約者を処刑したら聖女になってました。けど何か文句ある?

春夜夢

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第二十四話:女神の仮面は、粉々に

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「……マリア・ヴェステリア嬢。
この“毒のハーブティー”が、貴女から私への贈り物だったことは、
各使用人の証言と、筆跡、そして配膳記録から明らかです」

王宮謁見の間。
エリスの言葉が、静寂の空間を裂いた。

「それは……何かの誤解では……?」

マリアが声を震わせ、縋るような視線を周囲に向ける。
だが、その微笑はもはや民衆に届かない。

「私は、そんな……」

「“次に演出するなら、涙を誘う病の子どもを”」
「“涙は人心を動かす”」
「“清らかな聖女を作れば、エリスは消える”」

証人となる下働きの少女たちが、次々と証言を重ねていく。

マリアの“清らかさ”は、全て演出だった。

『マリア・ヴェステリア嬢に対し、聖女候補からの除外を決定します』
『今後、神託庁の立ち入りも制限されます』

神託庁長官の声が響いた瞬間、マリアは表情を変えた。

「……ああ、うるさいわね、全員。
“神託”が聞こえる女を処刑しかけたくせに、よく言うわ」

その冷笑に、場は一瞬で凍りつく。

(やっと本音を見せたわね)

私は静かに歩み寄り、マリアと向き合った。

「あなたは“なりたかった”だけ。
人を救いたいんじゃなくて、“崇められる存在”に憧れただけ」

「……あなたにだけは、言われたくなかった」

「私はもう、“聖女”でいようなんて思ってない。
ただ、“私の祈り”を、私の形で続けたいだけ」

そして、マリアは黙ったまま引きずられるように退場していく。

その背中に――哀れみの声すら、かけられなかった。

* * *

その夜。

ジルベルトは、ひとり王宮の塔にエリスを呼び出した。

「君があんなふうに立ち向かうのを見て……正直、嫉妬した」

「……嫉妬?」

「君は、ユリウスを選ぶかもしれない。
でも、それでも君を見続けてきた男が、ここにもいるんだって、言いたくなったんだ」

彼は歩み寄り、私の頬に手を添える。

「王族としてじゃない。
この国の未来でもない。
……僕は、君を愛している。
どうか、答えを聞かせてほしい。僕のことを、“男”として見てくれているか」

その瞳は、揺れていなかった。

強くて、脆くて、だからこそ誠実な、ひとりの“男”の顔だった。

私は――答えを出さなければならない。

(でも、まだ心が揺れている。誰かに預けたくなる夜も、
ひとりで歩きたい朝も、どちらも嘘じゃないから)

「……もう少し、私自身に正直でいたいの。
答えを出す前に、ちゃんと“自分の気持ち”と向き合いたい」

「……うん。君がそう言うなら、待つ。
待てる。それくらい、君が好きだ」

そして彼は、何もせず、ただ静かに私の手を握った。
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