25 / 25
第二十五話:私は、私のために祈る
しおりを挟む
「少しの間だけ……姿を消してもいいかしら?」
政務を終えた夜、私は神託庁長官にそう告げた。
「誰にも会わず、話さず、
ただ、“自分の声”を取り戻す時間が欲しいの」
王宮での役目も、民からの称賛も、
二人の男のまっすぐな想いも――すべてが、ありがたくて、重かった。
だから私は、何も持たずに出発した。
馬車も使わず、昔、婆様と歩いた小道を思い出すように。
静かな森の中、
焚き火のそばで膝を抱えていたその夜。
「……また泣くなんて、ほんと私らしくないわね」
ひとりでいるはずだったのに。
「やっぱり……ここにいた」
声がして、私は顔を上げた。
「……ユリウス」
「黙って消えないでください。
あなたがどこにいても、俺は探します」
彼はそう言って、隣に座り、火を見つめた。
「答えは、出ましたか?」
「まだよ。でも、わかったの。
私は、誰かに選ばれたいんじゃない。
“選びたかった”の。自分の手で、人生も、誰かのことも」
「……ええ。それがあなたらしい」
風がやわらかく吹いた。
ユリウスはそれ以上何も言わず、ただ、
私の肩にそっと外套をかけてくれた。
* * *
そして、もう一人の男にも手紙を送った。
ジルベルトへ
あなたの言葉は、胸を撃ちました。
でも私は、王妃になりたいわけでも、玉座の隣を望んでいるわけでもありません。
私が立ちたいのは、“誰の後ろでもない、誰かの傍ら”です。
彼はそれを読んで、ただひとこと、こう言った。
「――綺麗な風だ。あの人は、どこまでも風みたいだ」
そしてそれ以上、何も言わなかった。
それが彼なりの、“答えを受け入れる”という返事だったのかもしれない。
* * *
数日後。
私は、神託庁の中庭に戻ってきた。
その手にはもう、重たいものはない。
ただ、“選ぶ”覚悟と、“祈る”自由だけを携えて。
そしてその隣には、
いつものように、何も言わずに立っている男がいた。
「おかえりなさい、エリス様」
「ただいま、ユリウス。……待たせて、ごめんね」
「いえ。あなたが戻るなら、何年でも待ちますから」
私は、ふっと笑って、言った。
「それ、未来永劫って意味でしょ?
それならもう、ずっと隣にいてもらおうかしら」
「……はい。よろこんで」
そして私は、
この国の“聖女”としてではなく――
“ただの私”として、
初めて、誰かと一緒に立つことを選んだ。
政務を終えた夜、私は神託庁長官にそう告げた。
「誰にも会わず、話さず、
ただ、“自分の声”を取り戻す時間が欲しいの」
王宮での役目も、民からの称賛も、
二人の男のまっすぐな想いも――すべてが、ありがたくて、重かった。
だから私は、何も持たずに出発した。
馬車も使わず、昔、婆様と歩いた小道を思い出すように。
静かな森の中、
焚き火のそばで膝を抱えていたその夜。
「……また泣くなんて、ほんと私らしくないわね」
ひとりでいるはずだったのに。
「やっぱり……ここにいた」
声がして、私は顔を上げた。
「……ユリウス」
「黙って消えないでください。
あなたがどこにいても、俺は探します」
彼はそう言って、隣に座り、火を見つめた。
「答えは、出ましたか?」
「まだよ。でも、わかったの。
私は、誰かに選ばれたいんじゃない。
“選びたかった”の。自分の手で、人生も、誰かのことも」
「……ええ。それがあなたらしい」
風がやわらかく吹いた。
ユリウスはそれ以上何も言わず、ただ、
私の肩にそっと外套をかけてくれた。
* * *
そして、もう一人の男にも手紙を送った。
ジルベルトへ
あなたの言葉は、胸を撃ちました。
でも私は、王妃になりたいわけでも、玉座の隣を望んでいるわけでもありません。
私が立ちたいのは、“誰の後ろでもない、誰かの傍ら”です。
彼はそれを読んで、ただひとこと、こう言った。
「――綺麗な風だ。あの人は、どこまでも風みたいだ」
そしてそれ以上、何も言わなかった。
それが彼なりの、“答えを受け入れる”という返事だったのかもしれない。
* * *
数日後。
私は、神託庁の中庭に戻ってきた。
その手にはもう、重たいものはない。
ただ、“選ぶ”覚悟と、“祈る”自由だけを携えて。
そしてその隣には、
いつものように、何も言わずに立っている男がいた。
「おかえりなさい、エリス様」
「ただいま、ユリウス。……待たせて、ごめんね」
「いえ。あなたが戻るなら、何年でも待ちますから」
私は、ふっと笑って、言った。
「それ、未来永劫って意味でしょ?
それならもう、ずっと隣にいてもらおうかしら」
「……はい。よろこんで」
そして私は、
この国の“聖女”としてではなく――
“ただの私”として、
初めて、誰かと一緒に立つことを選んだ。
136
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした
きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。
顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。
しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました
藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、
騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。
だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、
騎士団の解体と婚約破棄。
理由はただ一つ――
「武力を持つ者は危険だから」。
平和ボケした王子は、
非力で可愛い令嬢を侍らせ、
彼女を“国の火種”として国外追放する。
しかし王国が攻められなかった本当の理由は、
騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。
追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、
軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。
――そして一週間後。
守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。
これは、
「守る力」を理解しなかった国の末路と、
追放された騎士団長令嬢のその後の物語。
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
兎子様 感想ありがとうございます!
ユリウスに対してのツッコミ、思わず笑ってしまいました(笑)
温かく、そして鋭いご感想、本当にありがとうございました!今後も楽しんでいただけるよう精進します!