婚約者を処刑したら聖女になってました。けど何か文句ある?

春夜夢

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第二十五話:私は、私のために祈る

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「少しの間だけ……姿を消してもいいかしら?」

政務を終えた夜、私は神託庁長官にそう告げた。

「誰にも会わず、話さず、
ただ、“自分の声”を取り戻す時間が欲しいの」

王宮での役目も、民からの称賛も、
二人の男のまっすぐな想いも――すべてが、ありがたくて、重かった。

だから私は、何も持たずに出発した。
馬車も使わず、昔、婆様と歩いた小道を思い出すように。

静かな森の中、
焚き火のそばで膝を抱えていたその夜。

「……また泣くなんて、ほんと私らしくないわね」

ひとりでいるはずだったのに。

「やっぱり……ここにいた」

声がして、私は顔を上げた。

「……ユリウス」

「黙って消えないでください。
あなたがどこにいても、俺は探します」

彼はそう言って、隣に座り、火を見つめた。

「答えは、出ましたか?」

「まだよ。でも、わかったの。
私は、誰かに選ばれたいんじゃない。
“選びたかった”の。自分の手で、人生も、誰かのことも」

「……ええ。それがあなたらしい」

風がやわらかく吹いた。

ユリウスはそれ以上何も言わず、ただ、
私の肩にそっと外套をかけてくれた。

* * *

そして、もう一人の男にも手紙を送った。

ジルベルトへ
あなたの言葉は、胸を撃ちました。
でも私は、王妃になりたいわけでも、玉座の隣を望んでいるわけでもありません。
私が立ちたいのは、“誰の後ろでもない、誰かの傍ら”です。

彼はそれを読んで、ただひとこと、こう言った。

「――綺麗な風だ。あの人は、どこまでも風みたいだ」

そしてそれ以上、何も言わなかった。
それが彼なりの、“答えを受け入れる”という返事だったのかもしれない。

* * *

数日後。
私は、神託庁の中庭に戻ってきた。

その手にはもう、重たいものはない。

ただ、“選ぶ”覚悟と、“祈る”自由だけを携えて。

そしてその隣には、
いつものように、何も言わずに立っている男がいた。

「おかえりなさい、エリス様」

「ただいま、ユリウス。……待たせて、ごめんね」

「いえ。あなたが戻るなら、何年でも待ちますから」

私は、ふっと笑って、言った。

「それ、未来永劫って意味でしょ?
それならもう、ずっと隣にいてもらおうかしら」

「……はい。よろこんで」

そして私は、
この国の“聖女”としてではなく――

“ただの私”として、
初めて、誰かと一緒に立つことを選んだ。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

兎子
2025.07.02 兎子
ネタバレ含む
2025.07.02 春夜夢

兎子様 感想ありがとうございます!

ユリウスに対してのツッコミ、思わず笑ってしまいました(笑)
温かく、そして鋭いご感想、本当にありがとうございました!今後も楽しんでいただけるよう精進します!

解除

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