Ωの花嫁に指名されたけど、αのアイツは俺にだけ発情するらしい

春夜夢

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第3話:発情因子は、俺にしか反応しない

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 「――君の身体から、確かにフェロモン反応は出ていない。けれど、天瀬くんの脳波は“発情状態”に入っていた」

 医師の口から放たれた言葉は、まるで世界のルールを壊す宣告のようだった。

「ふざけてんのかよ……っ。俺、ノンラベルですよ? なんで俺のせいになるんですか」

 声が震える。
 恐怖でも怒りでもない。
 理解できない何かに、脳が追いついていなかった。

「検査の結果は事実だ。フェロモンを出していないにも関わらず、相手が発情している。
 この反応は、従来のα-Ω間にしか起こり得ない現象だ。だが今回は例外だ。……つまり、“君が例外”なんだよ、緋月くん」

「……っ」

 陽翔は何も言わなかった。
 ただじっと、俺の横顔を見つめていた。

 その視線が――熱かった。
 視線だけで、皮膚が焼けるような錯覚すら覚えるほどに。

「お前さえ……いなければ、こんな風にならなかったのにな」

 ぽつりと、陽翔が呟いた。
 怒ってるようには見えない。
 むしろその声音は、どこか優しく、どこまでも執着に染まっていた。

「……悪かったな。俺のせいで。じゃあ、もう放っといてくれよ」

「無理だよ。……透真、お前以外、感じないんだ。
 どんなΩの匂いにも反応しないのに、お前が教室に入るだけで、俺の身体は熱を持つ」

 陽翔の手が、俺の手首をそっと掴んだ。
 逃げようとしたけど、力は入らなかった。
 その手は――とても熱かった。

「このまま、実験を続けさせてくれ」

「は? 何を──」

 言いかけた瞬間、陽翔は俺の耳元に口を寄せ、こう囁いた。

「今、お前の体に俺が触れたら……俺がどこまで壊れるのか、知りたいんだ」

 鼓膜が痺れた。
 意味が分からない。けど、身体の芯がぞわりと震えた。

「ダメだ……っ、離して、陽翔っ」

「……じゃあ、せめて匂いだけ。触れない。嗅がせてくれ」

 彼は本気だった。
 瞳の奥が、狂気じみた熱で揺れていた。

 ──でも、俺は。

「……わかった。匂いくらいなら、……嗅げばいい」

 口が、勝手に動いた。
 ほんの一瞬、背中の緊張が緩んだときだった。

 陽翔の顔が、俺の喉元にぴたりと寄り添う。

「……っ、ん……や、だ……そこ、やめ……」

 舌が、喉元を舐めた。

 それは明確な“接触”だった。
 そしてその瞬間、陽翔の身体がびくりと跳ねた。

「やっぱり……やばい。お前、……フェロモン、出てるよ。誰にも反応しない俺が、こんなに……っ」

「っ、はなしてってば……!」

 全身を強引に押さえつけられることはなかった。
 けれど、陽翔の気配が――本能が、俺の理性を侵食してくる。

「透真。……俺、もう限界かもしれない」

 俺は。
 このまま、何も言わずにいれば。
 こいつに抱かれるんだろうか――
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