Ωの花嫁に指名されたけど、αのアイツは俺にだけ発情するらしい

春夜夢

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第14話:王が動く時、番を取り戻すために

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透真が姿を消して、三日が経った。

 誰にも何も告げず、転移記録すら残さずに姿をくらませた。
 最初は焦りが勝った。
 だが、手元に届いた一通の手紙が、俺を落ち着かせた。

『俺はどこにも行かない。ただ、“まだ隣に立てる覚悟ができてない”だけだ』

『お前の番であることが、お前の力になる日が来たら……そのとき、もう一度、迎えに来てくれ』

 読み返すたび、胸の奥が熱くなる。
 けれど同時に、彼の言葉は──“今はそばにいる資格がない”と、自ら距離を取った宣言でもある。

「……だったら、俺が変えるしかない」

 この国の制度も、価値観も、権力の在り方も。
 透真の存在を否定するような枠組みそのものを、壊してしまえばいい。

 執政室。
 そこは未来の統領だけが入れる、王政中枢の準備室だ。

「“ノンラベルは番に値しない”。この規定を廃止してほしい」

 そう告げたとき、席に並ぶ顧問たちは一斉に顔を上げた。

「……天瀬陽翔。
 君はその言葉の重さを理解しているのか?」

 最年長の顧問がゆっくりと尋ねる。

「理解している。“個別対応番制度”の構築を求める。
 対象者がノンラベルであっても、身体が番応答反応を示し、互いにフェロモン干渉を可能とする場合――その者を“法的番”と認定するように、制度の改定を要請したい」

 書面を差し出した。
 それは、透真の医療記録と、番応答反応の解析データ。
 さらに、俺自身の脳波データと発情記録。
 ──全て、“番である証拠”として差し出す覚悟の記録。

「君は、それを世に出す覚悟があると?」

「ある」

 俺は即答した。

「ならば、答えを出すのは国民だ。
 明朝、君の提案を臨時公開審議にて扱う」

 その夜、部屋でひとり資料を整理しながら、ふと透真のことを思い出す。

(あいつ、きっと俺が追ってくることを分かってたんだろうな)

 そうじゃなきゃ、あんな手紙は残さない。

 逃げたんじゃない。
 信じたから、身を引いたんだ。

「……透真。
 “隣に立ちたい”って、お前が言える国を、俺が作る」

 その日が来るまで。
 その瞬間、堂々と腕を引いてやれるまで――
 俺は王の道を捨てず、抗い抜く。

 ただ、“お前の番”であり続けるために。

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