Ωの花嫁に指名されたけど、αのアイツは俺にだけ発情するらしい

春夜夢

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第15話:番を選んだ未来、国に問う

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「これより、臨時公開審議を開始する。
 案件:統領候補・天瀬陽翔による『個別番制度改定案』について──」

 議会室に、緊張が走った。
 生中継されるこの演説は、国民にもそのまま放送されている。
 歴代統領候補の中で、“番”を理由に制度へ異議を唱える者など、陽翔以外に存在しなかった。

「……では、天瀬候補、壇上へ」

 陽翔が立ち上がる。
 制服のボタンを外すと、その下に見えるのは──
 “番の証”とされる、微かに赤く残る噛み痕だった。

 騒然とする議場。
 だが、彼は一歩も引かず、はっきりと口を開いた。

「俺は、番を得ました。
 制度上“番にふさわしくない”とされたノンラベルの男です。
 ですが、俺の身体は、俺の心は、彼にしか応えません」

「発情反応、フェロモン干渉、脳波共鳴──
 医学的にも、俺たちは“番”として成立しています」

「それでも、“分類外”という理由で切り捨てるのが、この国の制度なら、俺はその制度に抗います」

 議場の片隅で、ある顧問が立ち上がった。

「天瀬候補。それでは、君は“統領の座”を諦めても構わないというのか?」

 陽翔は一瞬、黙った。
 そしてゆっくりと──確かにうなずいた。

「番を選んだことを恥じるような王に、誰がついていくんですか?」

「誰かの番を“異常”と笑う国なら、そんな国こそ異常だ」

「俺は、彼を選んだことを誇りに思っています。
 彼がいる世界を、守りたいと本気で思った。
 ──なら、それが俺にとっての“王の資格”です」

 議場に、沈黙が落ちた。

 そして次第に、少しずつ、誰かが拍手を始める。
 一人、また一人。
 それはやがて、議場全体を包み込む拍手となっていった。

 その放送を、透真は宿舎の片隅で見ていた。
 小さなテレビの画面越しに、陽翔の声が胸を突き刺す。

 彼は何も変わっていなかった。
 けれど、確かに“前へ進んでいた”。

 あの日の手紙。
 「お前の力になる日が来たら、迎えに来い」と書いた自分の言葉が、
 今、こうして彼を動かしていた。

「……陽翔」

 呟いた声が震えていたのは、
 後悔でも、恐怖でもない。

 ただただ、胸の奥にこみあげる、どうしようもない“想い”だった。
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