Ωの花嫁に指名されたけど、αのアイツは俺にだけ発情するらしい

春夜夢

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第19話:その愛に、名前を

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「──番登録完了、おめでとうございます」

 役所の窓口でそう告げられた瞬間、
 透真の心に、小さな鈴が鳴るような音が響いた気がした。

 紙に記された登録名を、もう一度見る。

番登録名:天瀬 透真(あませ とうま)

 ──陽翔と、同じ姓になった。

「……なんか、実感湧かねぇな」

 呆れたように呟いた透真に、隣の陽翔は静かに笑った。

「お前が選んでくれたんだ。“俺の隣に立つ”って。
 その証だ。誇っていい」

「……うん」

 学園ではすでに、ふたりの“番登録”が公式掲示されていた。
 通知板に貼られた紙には、

【新規番登録】
天瀬陽翔 × 天瀬透真
※異例認定につき参考資料付き

 という文字とともに、ふたりの顔写真が添えられている。

「なんで顔写真……っ恥ずかしいっつーの……!」

 掲示板前で顔を覆う透真の隣で、
 陽翔はなぜか堂々としたままだった。

「別にいいだろ。可愛いし」

「バカ、声に出すな……!」

 けれど、どこか嬉しそうに肩を揺らす透真の様子に、
 陽翔は何も言わず、そっと彼の手を握る。

 その日の午後、講義の終わりに陽翔がふいに尋ねてきた。

「透真。……今日、俺の演説見た新入生が声かけてきた」

「へぇ」

「“あんな風に番を選べる強さが欲しい”って言ってた」

「……それ、お前のことじゃん」

「いや。俺だけじゃなく、お前が“選ばれたことを恐れず残った”からだろ。
 透真。……お前、知らないうちに、人を救ってるよ」

 突然の言葉に、透真は何も返せなかった。

 自分が誰かの希望になっているなんて、思ったこともなかった。

 ただ、彼の隣にいたい。
 その想いひとつで、ここに立っているだけなのに。

「……俺も、ようやく少しは“番”らしくなれてきたかな」

「いや。最初から、お前以上の番はいない」

 ──こんなにも真っすぐに、そう言ってくれる人がいる。
 その事実だけで、世界が少し優しく見える気がした。

 夜、ふたりでベッドに入りながら、透真がふと口を開いた。

「ねえ、陽翔」

「ん?」

「これから先、番ってだけじゃなく……“恋人”としても、お前にちゃんと好かれていたい」

「……は?」

「だって、番って本能で結ばれるものだろ。
 でも俺は、“心”でも好かれたい。ちゃんと、愛されてたい」

 その声は少し震えていたけれど、
 とても誠実で、透真らしい願いだった。

 陽翔は、軽く目を閉じて言った。

「俺にとって、お前は“好き”の証明そのものだ。
 番だからじゃない。……透真だから、欲しいと思ったんだ」

「……ありがと」

「毎晩でも言ってやる。だから、覚悟しとけ」

「や、やめろ……ニヤける……!」

 明日もきっと、騒がしくて、注目されて、
 少し居心地の悪い瞬間もあるかもしれない。

 でも、“ふたりで選んだ名前”がそこにあれば。
 もう逃げる必要なんて、どこにもない。
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