Ωの花嫁に指名されたけど、αのアイツは俺にだけ発情するらしい

第31話：狩屋の本音、そして陽翔の過去

放課後。
　陽翔と透真は、人気のない屋上にいた。

　夕陽が、校舎の白壁を茜色に染めている。

　陽翔の隣で、透真がぽつりと呟いた。

「狩屋って……お前のこと、知ってる感じだったな」

「……ああ。中学のときの同級生だ。
　同じ塾で、成績もスポーツも張り合ってた。
　……俺の唯一の“ライバル”だった」

　陽翔の声は、どこか苦く、遠い。

「最初はただの競争だった。
　でも、いつからか……奴は、俺を“倒すべき対象”として見てた。
　俺が注目されればされるほど、
　奴は“俺の持ってるもの”を欲しがるようになっていった」

「……今回も、その一環ってことか」

「ああ。透真、お前が“俺の番”になったから、
　狩屋は“奪えば勝ち”だと思ってる。
　……お前のことを“道具”みたいに扱う目を、俺は絶対に許せない」

　透真はゆっくりと陽翔の手を取った。

「俺のこと、そんなふうに思ってくれて、嬉しいよ。
　でも……安心して。狩屋になんか、俺の心は揺れない」

「……本当か？」

「うん。だって俺、陽翔のすべてを見てきたし、
　これからも見ていたいって思ってる。
　お前がどんな過去を抱えていようと、
　俺にとっては今の“お前”がすべてだから」

　陽翔は、その言葉に目を伏せた。
　風がふわりと髪を揺らし、
　ふたりの距離を、ひときわ近づける。

「……透真。お前といると、俺の心が穏やかになる。
　あいつと競ってた頃は、いつも張り詰めてた。
　でも今は、お前を守りたいって気持ちで、初めて心が落ち着くんだ」

　透真は小さく笑った。

「俺、そんなに癒し系だったっけ？」

「癒しっていうか……
　“本当の自分”に戻れる場所、みたいな感じ」

「……それ、すごく嬉しい」

　陽翔はふと、透真の髪にそっと触れた。
　そして額を合わせるようにして、目を閉じる。

「……絶対に、お前を渡さない。
　狩屋がどう出てこようと、お前が俺の番であることに変わりはない。
　それを、これから証明し続けてやる」

「……うん。俺も、ずっと隣にいるよ」

　ふたりの間にあるのは、
　番という名の“契約”ではなく──
　選び合った“意志”そのものだった。

　一方その頃。
　図書室の奥で、狩屋 鷹真は独り、手帳を閉じた。

「……陽翔、お前の番は、思っていたより強いな」

　その口元には、微笑みとも皮肉ともつかない表情が浮かんでいた。