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第32話:試される絆と、狩屋の接近
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午後の選択授業中、透真は空き教室でひとりノートをまとめていた。
そこへ、静かに扉が開く。
「ここにいたんだね。……緋月くん」
現れたのは、狩屋 鷹真。
「……何の用ですか」
「いや、ただ話がしたかっただけ。
陽翔のこと、……そして君自身のこともね」
透真は視線を逸らさず、静かに返した。
「話すことなんてないと思いますよ」
「そう言わずに。……俺さ、ずっと疑問だったんだ。
君が“なぜ”陽翔の番になれたのか」
「俺が“なぜ”じゃない。
俺と陽翔が、お互いを“選んだ”からですよ」
「でも……それが本当に“愛”だったとしたら、
揺らぐこともないと、言い切れる?」
透真の眉が、わずかに動く。
「俺たちのこと、あなたに判断される筋合いはありません」
狩屋は、ふっと笑った。
「君って、本当に面白いな。
ノンラベルなのに、こんなに芯が通ってる。……正直、好みかも」
「……は?」
不意に、狩屋は机に手をつき、透真へ距離を詰めた。
「試してみようか? 君のその“選び”が本物かどうか。
俺のことをどう感じるかで、見極めてみればいい」
透真は即座に立ち上がり、距離を取った。
「……やめてください。
あなたの興味が、俺に向いてるんじゃないことぐらい、分かってます」
その瞬間、扉が乱暴に開いた。
「……やっぱり、ここにいたか」
陽翔の声。
瞳は怒りよりも、不安と戸惑いに濡れていた。
「透真、大丈夫か?」
「……うん。大丈夫だよ」
狩屋は陽翔に向き直る。
「相変わらず、察しがいいな。さすがだよ、陽翔」
「二度と透真に近づくな。
“試す”なんて言葉、軽々しく口にするなよ」
「……そう怒るな。君がどれだけ“選ばれた”男か、興味があっただけさ」
狩屋が去った後、陽翔は重い沈黙の中で、ぽつりと呟いた。
「……怖かった。
あいつの言葉に、お前が心を揺らがされたらって……初めて、本気で怖かった」
「陽翔……」
「俺、お前に対して、自信があるように見えて……実は毎日必死だ。
お前が俺を好きでいてくれてる、それだけで、今の俺がある」
透真は、そっとその頬に手を添えた。
「俺も、同じだよ。
お前がそばにいてくれるから、強くなれた。
どんな言葉を投げられても、俺の気持ちは揺るがない」
ふたりの手が重なり、静かな教室の中に、安堵が満ちていく。
“選び合った”という事実だけが、唯一の真実。
けれど、狩屋がまいた火種は、まだ完全には消えていなかった。
そこへ、静かに扉が開く。
「ここにいたんだね。……緋月くん」
現れたのは、狩屋 鷹真。
「……何の用ですか」
「いや、ただ話がしたかっただけ。
陽翔のこと、……そして君自身のこともね」
透真は視線を逸らさず、静かに返した。
「話すことなんてないと思いますよ」
「そう言わずに。……俺さ、ずっと疑問だったんだ。
君が“なぜ”陽翔の番になれたのか」
「俺が“なぜ”じゃない。
俺と陽翔が、お互いを“選んだ”からですよ」
「でも……それが本当に“愛”だったとしたら、
揺らぐこともないと、言い切れる?」
透真の眉が、わずかに動く。
「俺たちのこと、あなたに判断される筋合いはありません」
狩屋は、ふっと笑った。
「君って、本当に面白いな。
ノンラベルなのに、こんなに芯が通ってる。……正直、好みかも」
「……は?」
不意に、狩屋は机に手をつき、透真へ距離を詰めた。
「試してみようか? 君のその“選び”が本物かどうか。
俺のことをどう感じるかで、見極めてみればいい」
透真は即座に立ち上がり、距離を取った。
「……やめてください。
あなたの興味が、俺に向いてるんじゃないことぐらい、分かってます」
その瞬間、扉が乱暴に開いた。
「……やっぱり、ここにいたか」
陽翔の声。
瞳は怒りよりも、不安と戸惑いに濡れていた。
「透真、大丈夫か?」
「……うん。大丈夫だよ」
狩屋は陽翔に向き直る。
「相変わらず、察しがいいな。さすがだよ、陽翔」
「二度と透真に近づくな。
“試す”なんて言葉、軽々しく口にするなよ」
「……そう怒るな。君がどれだけ“選ばれた”男か、興味があっただけさ」
狩屋が去った後、陽翔は重い沈黙の中で、ぽつりと呟いた。
「……怖かった。
あいつの言葉に、お前が心を揺らがされたらって……初めて、本気で怖かった」
「陽翔……」
「俺、お前に対して、自信があるように見えて……実は毎日必死だ。
お前が俺を好きでいてくれてる、それだけで、今の俺がある」
透真は、そっとその頬に手を添えた。
「俺も、同じだよ。
お前がそばにいてくれるから、強くなれた。
どんな言葉を投げられても、俺の気持ちは揺るがない」
ふたりの手が重なり、静かな教室の中に、安堵が満ちていく。
“選び合った”という事実だけが、唯一の真実。
けれど、狩屋がまいた火種は、まだ完全には消えていなかった。
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