Ωの花嫁に指名されたけど、αのアイツは俺にだけ発情するらしい

春夜夢

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第36話:番適性判定と、透真の過去

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週末、ふたりは学園から手配された外部医療機関──
 バース研究の専門施設を訪れていた。

 診察室に入ると、白衣姿の女性医師が立っていた。

「初めまして。私が今回の判定を担当する、月岡(つきおか)です。
 ふたりには、医学的・心理的観点から“番としての適性”を判定させていただきます」

 月岡は、冷静で無駄のない口調だった。
 だがその目には、決して軽んじない誠実さがあった。

「まずは、透真くんから。
 過去に服用していた薬の記録と、現在の心理状態について確認します。
 そのあとで、陽翔くんとの関係性を確認させてもらいますね」

 問診が始まる。
 透真は正直に、頭痛で眠れなかった日々、
 “自分の存在に価値がない”とさえ思っていた時期のことを語った。

「……俺は、自分がノンラベルだと知ったとき、
 “誰にも必要とされない存在”だって、思い込んでました。
 でも陽翔は……そんな俺を、ただ“ひとりの人間”として見てくれた」

 月岡医師は手を止め、静かに言った。

「それは、番を選ぶにおいて、とても重要な要素です。
 あなた自身が“救われたい”というより、
 “自分から選びたい”と願った瞬間は、いつでしたか?」

 透真は少しだけ、考えるように目を閉じた。

 ──あの日。
 雨に濡れた教室で、陽翔が自分を抱きしめたとき。
 「俺のものになれ」って、真剣な声で言ってくれた瞬間。

 胸の奥で、何かが確かに“結ばれた”と感じた。

「……陽翔に“選ばれた”って感じたとき、俺は、初めて“自分からも選びたい”と思いました。
 誰かに守られる存在じゃなくて、一緒に生きる“番”になりたいって、そう思ったんです」

 月岡はゆっくりと頷く。

「……ありがとう。あなたの言葉には、揺るぎがありません。
 次は、陽翔くん。透真くんを“番として選んだ理由”を聞かせてください」

 陽翔は少し息を吸い、静かに語り出す。

「最初は、透真の存在が気になって仕方なかった。
 でもそれが、欲望でも衝動でもなく、“心が引かれる感覚”だって気づいたとき……
 俺は、こいつを番にしたいって、心から思った」

「衝動ではなく、“愛”として?」

「ああ。俺はαだから、本能で惹かれる相手もいた。
 でも透真だけは、本能じゃなく“理性”が惹かれた。
 選んだんじゃない、“必要だった”。……こいつが、俺の答えだって思ったんです」

 静寂のあと、月岡が書類に手を伸ばす。

「現時点での診断では、番契約は“本人の明確な意思に基づき成立している”と判断されます。
 問題はありません。……報告書を学園に提出しますね」

 ふたりは、ようやく張り詰めた空気から解放され、ほっと息を吐いた。

 透真がふと笑った。

「……ちょっと、緊張した」

「俺は、今にも怒鳴りそうだった」

「バカ」

 笑いながら、指先が触れ合う。

 どんな疑いをかけられても、
 “ふたりで選んだこの関係”を、誰にも否定させない。
 そう、改めて心に刻んだ一日だった。

 一方その頃。
 狩屋のもとに、職員からの連絡が届く。

『適性診断の結果、番契約は有効との報告が届きました。
 これ以上の干渉は控えるように』

 狩屋はスマホを見つめ、ゆっくりと笑った。

「……なるほど。まだ、終わらせる気はないってことか」

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