Ωの花嫁に指名されたけど、αのアイツは俺にだけ発情するらしい

春夜夢

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第40話:遠距離の鼓動と、透真の新たな一歩

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陽翔が南方領に発ってから、三週間が経った。

 ──会えない。触れられない。声も、時差のせいでなかなか届かない。
 けれど、不思議と“孤独”とは違った。

 それは、透真が毎晩届くボイスメッセージを聞いているからかもしれない。


---

『透真、今日もお疲れ。そっちは寒いんだろ? ちゃんと寝てるか?』

 その声は、スマホ越しでも変わらず優しくて、
 まるで隣にいるように錯覚してしまう。


---

 昼休み。透真は学園内のカフェスペースで、進路担当との面談を終えたところだった。

「記録職か……いい志望動機だと思う。君のように“当事者”として
 バース制度に関わる人間の言葉は、未来に残す価値がある」

 担当者の言葉に、透真は小さく微笑んだ。

(──俺、前より“ちゃんと自分で歩けてる”気がする)


---

 その日の放課後。
 校門を出たところで、懐かしい声がした。

「……久しぶりだな、緋月」

 振り返ると、そこにいたのは──狩屋だった。


---

「なんで……ここに」

「今日は生徒会の外部連携で戻ってきただけだよ。
 ……でも、お前の顔を見るために寄ったってのも、半分本音」


---

 狩屋は、真顔で言った。

「ひとつ、確認させてくれ。
 ……お前、今でも陽翔のこと、“番”だと思ってるか?」


---

 唐突な問いに、透真は一瞬言葉を失う。
 だが、すぐに目を逸らさずに答えた。

「“今でも”じゃない。“ずっと”思ってる。……それが俺の答えだよ」


---

 狩屋は少しだけ苦笑し、スマホを取り出した。

「じゃあ、これ──見ても、“気持ちが変わらない”って言い切れるか?」

 そこには、陽翔と誰かが並んで映る写真。
 見知らぬ女性。南方の制服。──笑い合うふたり。


---

 狩屋は言う。

「向こうで、パートナー候補と組まされてるらしいよ。
 ──お前が知らないだけで、向こうの世界は進んでる」


---

 透真は写真を見つめながら、拳を握った。
 胸がざわめく。
 でも、それでも──

「俺は、“信じる”って決めたんだ。
 ……陽翔と、俺のあいだにある絆を」


---

 狩屋は小さく肩をすくめ、最後にひと言だけ残して立ち去った。

「……変わらないな、お前。
 でも──その強さが、いつかお前自身を壊す日が来なきゃいいけど」


---

 夜。
 透真は、陽翔からのメッセージを待ちながら、
 小さな録音機に向かって囁いた。

「……おかえり、って。ずっと言えるように、俺も強くなっておくから」
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