【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那

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第3章

29・宰相の妻はようやく自覚する

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「キ、キキョウ! 大丈夫ですか!! されたのは頬へのキスだけですか!? ほ、他に何か嫌なことはされていませんか!?」

 リシャルト様は私のそばまで走ってくると、強く私の肩を掴んだ。顔をのぞき込んでくる。
 リシャルト様がこんなに慌てているのを初めて見た。
 ここまで慌てている人が目の前にいると、逆にこちらは冷静になるというものだ。

「だ、大丈夫ですよ。頬へキスされただけです。それに、エルウィン様にとっては挨拶なんだと思いますよ……?」

 多分。
 なんだかんだこの世界で暮らして16年。この国では、挨拶で頬へキスをする習慣はなかったように思うが、エルウィン様は仕事でよく外国へ行っているようだから、その影響とかもあるのかもしれない。多分。

「そんなわけはありません。エルウィン殿下は多分僕への当てつけで……!」

 リシャルト様は言いながら、ポケットからハンカチを取り出し私の頬を拭った。エルウィン様は軽く触れただけだし、汚れてなんていないのに……。

「僕だってまだ、キキョウの頬にキスしたことなんてないのに……!」

 ストレートに言われて、思わずかっと顔が熱くなった。

 ――リシャルト様は、私のこと……どう思っているんだろう。

 好意は、痛いほど伝わってくる。
 リシャルト様に『好き』だと言われたことがないけれど、今まで散々「幸せにしたい」だの「大切に思っている」だの言われてきた。
 向けられている好意を自惚れだと思うほどには鈍くないつもりだ。

 だけど、それは果たして恋愛的なものなのだろうか。
 私が昔リシャルト様の命を助けたから、恩を返したいと思ってくれているだけなんじゃないのか。
 求婚までされていると言うのに、好意を示す確定的な言葉を言われたことがないから、踏み切れない。

 ――ああ、私、踏み込みたいんだ。

 ようやく私は自覚した。
 私はやっぱり、リシャルト様のことが好きなんだ。
 それはもう、多分なんかじゃない。
 好きと言われたいし、この人の腕の中に迷うことなく飛び込みたいんだ。

「リシャルト様……。リシャルト様は私のこと、どう思っているんですか?」

 ――私、卑怯だ。

 好きなら好きだと、自分から言えばいい。
 だけれど、もしリシャルト様が恋愛的な『好き』じゃなかったら?
 ほんのわずかな恐怖が首をもたげるのだ。
 ついこの間、首筋にキスまでされたというのに、それでも怖いのだ。

「ど、どうしたのですか、突然。もちろん、とても大切ですよ」

 リシャルト様が当たり前だとでもいうように答えてくれる。
 少し前までは、その答えだけで嬉しかった。満足だった。
 だけど今は、それ以上がほしい。欲張りだ。
 
「それは私のことを、恋愛的な意味で『好き』ということですか?」

 リシャルト様を見上げる。思ってもいない一言だったのか、リシャルト様は私の言葉に一瞬驚いたようだった。

「そんなの――」
 
 勇気がほしい。
 勇気を出さなければ。
 エルウィン様だって言ってくれたじゃないか。
『本人に聞いてみるといいよ』と。

 リシャルト様が何かを言おうとしている。
 だけど、もう言葉を止められなかった。

「私は……リシャルト様のことを、好きになってしまったんです」

「……っ!?」

 リシャルト様が息を飲む。
 次の瞬間、私は近くにあった部屋の中に連れ込まれていた。
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