宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません

真風月花

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八章

7、出てこない

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 王宮に到着したシャールーズを出迎えたのは、ティルダードだった。
 彼はまだ即位してもいないのに、わざわざ謁見の間に通された。

(こういう部屋って、王と大使とかが会うための場所じゃねぇのかよ)

 アーチ型の窓が並んだ、だだっ広い部屋。木の床には、モザイク画で植物が描かれている。
 玉座は、低い階段を八段ほど上がったところにあった。
 緋色と金に彩られた玉座に、ちんまりと座るティルダード。シャールーズとの距離は遠い。

「お久しぶりですね。シャールーズさん」

 柔らかな金糸の髪、若草のような緑の瞳。その華やいだ見た目に変わりはないのに。表情だけが暗く陰鬱だ。

「お前……変わったな」
「無礼なことを言う人ですね」

 ぎろりと睨みつけられた。まだ十歳の少年だから背は低く、玉座には、ごく浅く腰掛けなければ、足も床に届かないほどだ。

「正妃から、これを預かってきた」

 シャールーズは手紙を取りだした。今のティルダードに直接何かを手渡すことは、できないようだ。
  従者が手紙を受け取ると、段を上り、それを恭しくティルダードに差し出す。

「それが本当の正妃からの手紙だ。王宮から離宮に送った伝書鳩は、鷹に襲われていたんだ。そのことは知っているか?」
「さぁ? 鷹は自然の生き物ですからね。鳩を襲うこともあるでしょう」
「それが意図的であったとしても? 正妃からお前に宛てた手紙は、途中ですり替えられていたんだぞ」
「へぇ」

 ティルダードは興味なさそうに、話を受け流す。

 とても十歳の子どもには見えない。ラウルが慈しんだ、あのあどけない表情の面影はどこにもない。
 ティルダードは、母からの手紙を開こうともせずに破り捨てた。
 丹念に破られた紙の破片が、ひらひらと床に落ちていく。

「それが答えか。お前を離宮へ……母親の元へ連れて行こうとしたラウルは、お前を守って傷を負ったんだぞ」
「でも、結局ぼくを置いていきましたよ」
「状況が許さなかったのだと、分かるはずだろ。お前は聡明な子だ」

 いや「聡明な子だった」なのか。

 突然、ティルダードはぱんっ!と手を打った。
 それまでの暗い表情から一転して、朗らかな笑みを浮かべる。

「シャールーズさんを、晩餐にご招待しますね」
「いらん。どうせ俺は何も食わねぇ」
「まぁ、そう仰らずに。お付き合いしてもらわないと、ぼく、一人で食事するのが寂しいんですよ」

 にこにこと、まるで面のように貼りついた笑顔。

 なんだ、こいつ。
 気持ち悪い。薄気味悪い変貌だ。

「それに、もし断ったら。うーん、そうだなぁ。エラ伯母さまに、内緒にしてることを話しちゃおうっかなぁ」
「内緒って、なんだよ」

 嫌な予感に、シャールーズは眉根を寄せた。

「決まってるじゃないですか。……の、ことですよ」
「聞こえねぇぞ」
「あれ? おかしいな。出てこない」

 喉の調子が悪いのかと、ティルダードは咳きこんでいる。

「……が、実は……だって。え、なんで?」
「お前、何が言いたいんだよ」
「シャールーズさん、あなたは宝石精霊でしょ。ヤフダ姉さまもミトラ姉さまも、だから彼も。ほら、ぼくの……あれ? どうして?」

 ティルダードは小さな両手で、頭を抱えた。
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