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十章
6、王の盾として
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「シャールーズ。短剣を」
アフタルが指さしたのは、彼女の短剣だった。
主の意志を汲み取ったシャールーズは、仄明るい光を宿した柄を握る。
「ひざまずけ。アズレット」
有無を言わせぬ強い口調に、アズレットは素直に応じた。
シャールーズはアフタルを支えて立たせ、彼女の華奢な手に自分の大きな手を添える。
「アフタル。後はお前の務めだ」
アフタルはうなずくと、双子神の短剣を、近衛騎士団長の肩に当てる。
元来は騎士の剣を用いるが。あの血まみれの剣を使用するわけにはいかない。
「サラーマの王女、アフタルが命じます。今後も近衛騎士団を率い、次代の王にその身と忠誠心を捧げなさい。決して裏切ることなく、欺くことなく、王の盾となりなさい」
「……承りました」
絞りだすような声で、アズレットは応じた。
誇り高い死を選ぶよりも、己が敵とみなした相手に許され、仕えること。
それは苦しい選択だろう。
◇◇◇
パチパチと薪のはぜる音。アフタルの部屋は暑いほどだ。だが、今のアフタルにはその温度が心地よい。
「姫さま。温かなミルクをお持ちしました」
「ありがとう、ミーリャ」
寂しげな笑みを浮かべたミーリャは、窓辺に寄ると庭を見下ろした。
地面には血痕が残っている。ガラスに触れるミーリャの手が、ぎゅっと強く握りしめられる。
「我儘で奔放で、なんでも自分の思い通りになると考えていた人でした」
それがエラのことであると、アフタルはすぐに察した。
「娘のあたしも、駒でしかなかったんですけどね」
「ミーリャ」
「止めたかったんですよ。母が罪を重ねるのを見ているのは、娘として辛かったんです」
話し合う機会すら得られなかったのかもしれない。
母が子を大事にするのが当たり前だなんて、そんなことが言えるのは幸せに育った人だけだ。
エラに対するミーリャの感情は複雑で、きっと誰にでも理解できるものではないだろう。
悲しいのに、憎くて。
嫌悪しているのに、寂しくて。
「ミーリャ。わたくしと共に、パラティアに来てくださいますか?」
「来るなと言われても、ついて行きますよ。カイと一緒にね。ああ、それともう一人」
ミーリャはふり返り、入り口の方へと視線を向けた。
「あたしの守護精霊もね」
開いた扉の前に立っていたのは、ラウルを支えるミトラだった。
「そうそう、使い勝手はどうでした?」
「まぁまぁかな」
ミーリャに声をかけられて、ミトラは棒を掲げた。
「あんたが一生懸命釘を打ってくれたわけだから、大事にするわよ。あたしとヤフダ姉さまは、それぞれの主を護るために王女のふりをしていたけど。もうそれも必要ないしね」
説明によると、宝石のコーネルピンに、ミーリャが主の名乗りを上げることで、ミトラは人の姿に戻ることができたらしい。
そして、主従の契約を結んだのだそうだ。
「ほら、ラウル。あんたも主に何か言いなさいよ」
隣に立つラウルの肩を、ミトラは押した。
アフタルが指さしたのは、彼女の短剣だった。
主の意志を汲み取ったシャールーズは、仄明るい光を宿した柄を握る。
「ひざまずけ。アズレット」
有無を言わせぬ強い口調に、アズレットは素直に応じた。
シャールーズはアフタルを支えて立たせ、彼女の華奢な手に自分の大きな手を添える。
「アフタル。後はお前の務めだ」
アフタルはうなずくと、双子神の短剣を、近衛騎士団長の肩に当てる。
元来は騎士の剣を用いるが。あの血まみれの剣を使用するわけにはいかない。
「サラーマの王女、アフタルが命じます。今後も近衛騎士団を率い、次代の王にその身と忠誠心を捧げなさい。決して裏切ることなく、欺くことなく、王の盾となりなさい」
「……承りました」
絞りだすような声で、アズレットは応じた。
誇り高い死を選ぶよりも、己が敵とみなした相手に許され、仕えること。
それは苦しい選択だろう。
◇◇◇
パチパチと薪のはぜる音。アフタルの部屋は暑いほどだ。だが、今のアフタルにはその温度が心地よい。
「姫さま。温かなミルクをお持ちしました」
「ありがとう、ミーリャ」
寂しげな笑みを浮かべたミーリャは、窓辺に寄ると庭を見下ろした。
地面には血痕が残っている。ガラスに触れるミーリャの手が、ぎゅっと強く握りしめられる。
「我儘で奔放で、なんでも自分の思い通りになると考えていた人でした」
それがエラのことであると、アフタルはすぐに察した。
「娘のあたしも、駒でしかなかったんですけどね」
「ミーリャ」
「止めたかったんですよ。母が罪を重ねるのを見ているのは、娘として辛かったんです」
話し合う機会すら得られなかったのかもしれない。
母が子を大事にするのが当たり前だなんて、そんなことが言えるのは幸せに育った人だけだ。
エラに対するミーリャの感情は複雑で、きっと誰にでも理解できるものではないだろう。
悲しいのに、憎くて。
嫌悪しているのに、寂しくて。
「ミーリャ。わたくしと共に、パラティアに来てくださいますか?」
「来るなと言われても、ついて行きますよ。カイと一緒にね。ああ、それともう一人」
ミーリャはふり返り、入り口の方へと視線を向けた。
「あたしの守護精霊もね」
開いた扉の前に立っていたのは、ラウルを支えるミトラだった。
「そうそう、使い勝手はどうでした?」
「まぁまぁかな」
ミーリャに声をかけられて、ミトラは棒を掲げた。
「あんたが一生懸命釘を打ってくれたわけだから、大事にするわよ。あたしとヤフダ姉さまは、それぞれの主を護るために王女のふりをしていたけど。もうそれも必要ないしね」
説明によると、宝石のコーネルピンに、ミーリャが主の名乗りを上げることで、ミトラは人の姿に戻ることができたらしい。
そして、主従の契約を結んだのだそうだ。
「ほら、ラウル。あんたも主に何か言いなさいよ」
隣に立つラウルの肩を、ミトラは押した。
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