宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません

真風月花

文字の大きさ
140 / 153
十章

6、王の盾として

しおりを挟む
「シャールーズ。短剣を」

 アフタルが指さしたのは、彼女の短剣だった。
 主の意志を汲み取ったシャールーズは、仄明るい光を宿した柄を握る。

「ひざまずけ。アズレット」

 有無を言わせぬ強い口調に、アズレットは素直に応じた。
 シャールーズはアフタルを支えて立たせ、彼女の華奢な手に自分の大きな手を添える。

「アフタル。後はお前の務めだ」

 アフタルはうなずくと、双子神ディオスクリの短剣を、近衛騎士団長の肩に当てる。
 元来は騎士の剣を用いるが。あの血まみれの剣を使用するわけにはいかない。

「サラーマの王女、アフタルが命じます。今後も近衛騎士団を率い、次代の王にその身と忠誠心を捧げなさい。決して裏切ることなく、欺くことなく、王の盾となりなさい」
「……承りました」

 絞りだすような声で、アズレットは応じた。

 誇り高い死を選ぶよりも、己が敵とみなした相手に許され、仕えること。
 それは苦しい選択だろう。
 
 ◇◇◇

 パチパチと薪のはぜる音。アフタルの部屋は暑いほどだ。だが、今のアフタルにはその温度が心地よい。

「姫さま。温かなミルクをお持ちしました」
「ありがとう、ミーリャ」

 寂しげな笑みを浮かべたミーリャは、窓辺に寄ると庭を見下ろした。
 地面には血痕が残っている。ガラスに触れるミーリャの手が、ぎゅっと強く握りしめられる。

「我儘で奔放で、なんでも自分の思い通りになると考えていた人でした」

 それがエラのことであると、アフタルはすぐに察した。

「娘のあたしも、駒でしかなかったんですけどね」
「ミーリャ」
「止めたかったんですよ。母が罪を重ねるのを見ているのは、娘として辛かったんです」

 話し合う機会すら得られなかったのかもしれない。
 母が子を大事にするのが当たり前だなんて、そんなことが言えるのは幸せに育った人だけだ。

 エラに対するミーリャの感情は複雑で、きっと誰にでも理解できるものではないだろう。
 悲しいのに、憎くて。
 嫌悪しているのに、寂しくて。

「ミーリャ。わたくしと共に、パラティアに来てくださいますか?」
「来るなと言われても、ついて行きますよ。カイと一緒にね。ああ、それともう一人」

 ミーリャはふり返り、入り口の方へと視線を向けた。

「あたしの守護精霊もね」

 開いた扉の前に立っていたのは、ラウルを支えるミトラだった。

「そうそう、使い勝手はどうでした?」
「まぁまぁかな」

 ミーリャに声をかけられて、ミトラは棒を掲げた。

「あんたが一生懸命釘を打ってくれたわけだから、大事にするわよ。あたしとヤフダ姉さまは、それぞれの主をまもるために王女のふりをしていたけど。もうそれも必要ないしね」

 説明によると、宝石のコーネルピンに、ミーリャが主の名乗りを上げることで、ミトラは人の姿に戻ることができたらしい。
 そして、主従の契約を結んだのだそうだ。

「ほら、ラウル。あんたも主に何か言いなさいよ」

 隣に立つラウルの肩を、ミトラは押した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~

黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。 待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金! チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。 「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない! 輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる! 元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!

処理中です...