宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません

真風月花

文字の大きさ
141 / 153
十章

7、ここが居場所

しおりを挟む
「ラウル」

 アフタルは腕を広げて、ラウルを抱きしめようとした。
 けれどラウルは戸惑ったように後ずさる。

「無事でよかったです」
「姫さまも」

 答えてはくれるのに、アフタルと視線を合わせてくれない。ただ目を伏せて、自分の足下を見つめているだけだ。

 シャールーズは腕を組んで、黙っている。
 ただそうして立っているだけで、シャールーズの威圧感はすごい。

「……私は、姫さまのお役に立つことができませんでした。使えない守護精霊なんです」

 ラウルの声はか細い。
 手に巻かれた白い包帯は、見ているだけでも痛々しい。服の下も同じような状態なのだろう。

「そんなことありません。わたくしは知っています。ラウルは矢を射られてからも、わたくしのことを追いかけてくれていたじゃないですか」

「だろうな。詳しいことは分からんが、ラウル、お前は池に手を浸けた状態だった。アフタルを救おうとする気持ちは本物だ。それに俺も矢を受けたことがあるから分かるが。あれは痛ぇし、治りも遅い」

 シャールーズが言葉を添えてくれる。

 基本的におとなしいアフタルと、真面目なラウルでは、軽口を叩くこともほとんどない。
 二人で話す内容も硬く、主従としては正しいのかもしれないが、打ち解けているとは言い難い。

 でも、時折ラウルが見せてくれる愛らしさを、アフタルはとても好ましく思っている。

「私は、たとえ自分が割れても姫さまをお護りすべきでした。こんな腑抜けた自分が、姫さまの守護精霊を名乗る資格はありません」
「ラウル……」

 アフタルはラウルの前に進んだ。さらにラウルは後退するから、壁に背中が当たってしまう。
 傷の痛みに、ラウルは顔をしかめた。

「ねぇ、わたくしを見てください。守護を降りるなんて、言わないでください」

 そっと手を伸ばし、ラウルの頬に触れる。ラウルが、びくっと身をすくめたのが分かった。

「ふふっ」
「え? なにか? 私は妙なことをしでかしましたか?」
「いえ。思い出してしまって」

 アフタルは笑みを浮かべた。ラウルは怜悧な印象だし、冷ややかで相手との間に壁を作りやすいのだけれど。
 弟という立場だからなのか。どこかティルダードに似たところがある。

「姫さま?」
「猫とハリネズミを恐れていたラウルのことが、頭に浮かんで。あんなにもかわいいのに」

 思いがけない内容だったらしい。ラウルは突然顔を真っ赤にした。

「アフタルさま。ひどいです、そんなことを皆の前で言うなんて」
「ごめんなさい。これは内緒ですね」

 アフタルは口の前で、人差し指を立てた。今更だけど。

「でも、わたくしのことを名前で呼んでくださいましたね。嬉しいです」
「姫さま」
「アフタル、ですよ?」

 二人の間に沈黙が流れる。
 にやにやして眺めているのはミトラとミーリャだ。
 シャールーズは、眉を寄せて顔をしかめている。

「お前ら、本当に面倒くせぇな」

 シャールーズにいきなり背後から両腕を掴まれて、アフタルは驚いた声を上げた。

「な、なにを?」
「はいはい。愛情表現、愛情表現」

 そのまま腕を上げさせられて、アフタルはラウルを抱きしめる格好になった。

(そうでした。精霊の糧は主の愛情と信頼)

 それまではシャールーズに腕を操られていたアフタルだが、自分の意思でラウルを抱きしめた。
 ラウルは体を強張らせたけれど。アフタルが抱きしめ続けるので、とうとう体の力を抜いた。

「アフタルさま」

 背の高いラウルが、アフタルの肩に顔を埋める。

「これからも、あなたのお傍に置いて頂けますか?」
「一緒にいてくれないと、寂しいです」

 まるで猫が頭をこすりつけるように、ラウルはアフタルの頭に自分の額を寄せた。
 ここが自分の居場所だと確認するように。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...