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一章
16 ヒロインのうわさ②
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「こんなうわさは知っているか?」
「……うわさ?」
「うわさ好きの妖精どもが騒いでいたのだ。虹色の髪を持つ娘のうわさをな」
「虹色……」
それはつまり、ヒロインのことではないか。
ペリーウィンクルが先を促すように興味津々の顔で見つめると、ヴィアベルはまるで寝物語を語るように「では話してやろうか」と滔々と話し出した。
虹色の髪を持つ娘の名前は、リコリス。
彼女は、妖精の中でもとびきり力が強いとされている、ひだまりの妖精と契約している。
そのため、中央の国に来る前からうわさ好きの妖精たちは彼女のことが気になって仕方がなかった。
この島に来た時も、妖精たちはあらゆるところからひっそりと、彼女を見ていた。
一体どんな娘が、ひだまりの妖精と契約を結んだのだろうか、と。
妖精たちの注目の中、リコリスは校門前で盛大に転んでしまったようだ。
居合わせた学校長の息子であるシナモンが助け起こすと、彼女は涙ながらに訴えた。「わたし、誰かに足を引っ掛けられて転んじゃったんです!」と。
妖精たちは首をかしげた。
だってリコリスは、一人で勝手に転んだのだ。
リコリスの近くにいたのは三人の娘だけで、彼女たちは何もしていなかった。
三人中二人は、重いトランクを抱えていたし、残る一人は小さな体にゴテゴテしたドレスを身につけている。
だからどうしたって、リコリスに危害を加えられるはずがない。
リコリスがしていることは、故意なのか勘違いなのか定かではない。
だが彼女は、よりにもよってシナモンに、誰かに転ばされたとうそをついて、犯人を探させているようなのだ。
シナモンは、この学校の長の息子である。
父がこの場所をどんなに大切にしているか、誰よりも理解していた。
妖精である父は、シナモンにあまり関心がない。
番であり、シナモンの母である冬の国の姫だけが特別だった。
もともと息子に対して関心が薄かったが、番を喪ってからは皆無になってしまったらしい。
残されたシナモンはなんとか父に認められようと頑張っているが、あまり芳しくはないようだ。
そんな中、初めて誰かに頼られた。
シナモンは嬉しかったのだろう。
しかも、頼ってきたのは力の強い妖精と契約している、注目株のリコリス。
彼は舞い上がり、現在は躍起になって犯人探しをしているらしい。
「……えぇ? でも私、近くで見ていたけど、本当に勝手に転んでいたよ?」
「うむ。三人の娘の特徴を聞いてよもやと思っていたが……やはりおまえだったか。もう一人はローズマリーだな?」
「そうだよ。でも、あの場にもう一人いたかなぁ?」
「私が聞いたのは、烏の濡れ羽色の髪に射干玉のような目、持っていたトランクは薄い衣に包まれていた……ということくらいだな」
ヴィヴァルディにおいて、黒髪に黒目は珍しい特徴だ。
まるで日本人みたいだなと思ったところで、ペリーウィンクルは「あ」と声を漏らす。
遠い東の国、ルジャからやって来た異国の令嬢──セリ。
シナモンルートにおける悪役令嬢というポジションである彼女は、まさに日本人らしい容姿をしている。
(ヒロインはシナモン狙い? だとしたら、何か対策しないと……逆ハーレム狙いならひとまず様子見かな)
考え事に没頭しだしたペリーウィンクルを見つめ、ヴィアベルはホッと胸を撫で下ろした。
彼女が何を言おうとしていたのか知らないが、とにかく嫌な予感しかしなかった。
とっさにどうでもいい話を振ってしまったのだが、無事に回避できたようで一安心である。
しかし、彼女は張り詰めたような顔をして何を言おうとしていたのか。
気になるが聞くのも怖いと、ヴィアベルはらしくもなく気弱に思った。
「……うわさ?」
「うわさ好きの妖精どもが騒いでいたのだ。虹色の髪を持つ娘のうわさをな」
「虹色……」
それはつまり、ヒロインのことではないか。
ペリーウィンクルが先を促すように興味津々の顔で見つめると、ヴィアベルはまるで寝物語を語るように「では話してやろうか」と滔々と話し出した。
虹色の髪を持つ娘の名前は、リコリス。
彼女は、妖精の中でもとびきり力が強いとされている、ひだまりの妖精と契約している。
そのため、中央の国に来る前からうわさ好きの妖精たちは彼女のことが気になって仕方がなかった。
この島に来た時も、妖精たちはあらゆるところからひっそりと、彼女を見ていた。
一体どんな娘が、ひだまりの妖精と契約を結んだのだろうか、と。
妖精たちの注目の中、リコリスは校門前で盛大に転んでしまったようだ。
居合わせた学校長の息子であるシナモンが助け起こすと、彼女は涙ながらに訴えた。「わたし、誰かに足を引っ掛けられて転んじゃったんです!」と。
妖精たちは首をかしげた。
だってリコリスは、一人で勝手に転んだのだ。
リコリスの近くにいたのは三人の娘だけで、彼女たちは何もしていなかった。
三人中二人は、重いトランクを抱えていたし、残る一人は小さな体にゴテゴテしたドレスを身につけている。
だからどうしたって、リコリスに危害を加えられるはずがない。
リコリスがしていることは、故意なのか勘違いなのか定かではない。
だが彼女は、よりにもよってシナモンに、誰かに転ばされたとうそをついて、犯人を探させているようなのだ。
シナモンは、この学校の長の息子である。
父がこの場所をどんなに大切にしているか、誰よりも理解していた。
妖精である父は、シナモンにあまり関心がない。
番であり、シナモンの母である冬の国の姫だけが特別だった。
もともと息子に対して関心が薄かったが、番を喪ってからは皆無になってしまったらしい。
残されたシナモンはなんとか父に認められようと頑張っているが、あまり芳しくはないようだ。
そんな中、初めて誰かに頼られた。
シナモンは嬉しかったのだろう。
しかも、頼ってきたのは力の強い妖精と契約している、注目株のリコリス。
彼は舞い上がり、現在は躍起になって犯人探しをしているらしい。
「……えぇ? でも私、近くで見ていたけど、本当に勝手に転んでいたよ?」
「うむ。三人の娘の特徴を聞いてよもやと思っていたが……やはりおまえだったか。もう一人はローズマリーだな?」
「そうだよ。でも、あの場にもう一人いたかなぁ?」
「私が聞いたのは、烏の濡れ羽色の髪に射干玉のような目、持っていたトランクは薄い衣に包まれていた……ということくらいだな」
ヴィヴァルディにおいて、黒髪に黒目は珍しい特徴だ。
まるで日本人みたいだなと思ったところで、ペリーウィンクルは「あ」と声を漏らす。
遠い東の国、ルジャからやって来た異国の令嬢──セリ。
シナモンルートにおける悪役令嬢というポジションである彼女は、まさに日本人らしい容姿をしている。
(ヒロインはシナモン狙い? だとしたら、何か対策しないと……逆ハーレム狙いならひとまず様子見かな)
考え事に没頭しだしたペリーウィンクルを見つめ、ヴィアベルはホッと胸を撫で下ろした。
彼女が何を言おうとしていたのか知らないが、とにかく嫌な予感しかしなかった。
とっさにどうでもいい話を振ってしまったのだが、無事に回避できたようで一安心である。
しかし、彼女は張り詰めたような顔をして何を言おうとしていたのか。
気になるが聞くのも怖いと、ヴィアベルはらしくもなく気弱に思った。
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