目指せ、婚約破棄!〜庭師モブ子は推しの悪役令嬢のためハーブで援護します〜

森 湖春

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三章

57 ヒロインのうわさ②

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「こわいなぁ。そんなに怒らないでよ、ヴィアベル」

 ペリーウィンクルは少しだけ顎を引いて上目遣いを心掛けながら、できる限りいつも通りの声で話しかけた。
 こんなしぐさ、本当はしたくない。柄じゃないから。
 でも、ローズマリーがすると破壊的にかわいらしいので、ペリーウィンクルに甘いヴィアベルなら、多少の効果はあると思ったのだ。

 目論見は当たり、冷気が少しだけ後退する。
 ペリーウィンクルの上目遣いは、功を奏したらしい。

「怒る? そうではない。私は、悲しいのだ。他でもないおまえが、私を頼らなかったからな」

 いや、怒ってるじゃん。
 ペリーウィンクルはその言葉を飲み込んだ。

 もう何度目だろう、このやりとりは。
 いい加減、ペリーウィンクルだって嫌になってくる。
 それでも、これ以上ヘソを曲げられては困ったことにしかならないので、付き合うしかないのだが。

 ヴィアベルは、サントリナとニゲラの恋が自分の助力なしに成就したことが面白くないらしい。
 というか、ペリーウィンクルが彼を頼らなかったことに腹を立てていた。

 親離れを目標にしているペリーウィンクルには迷惑──というのは少々語弊がある。本当は甘えたいところを将来のために涙を飲んで頑張っているのだから──でしかないのだが、どこまでも過保護な妖精は、彼女に頼られることを生きがいとしているらしい。

 そんなヴィアベルが、サントリナとニゲラの仲が急接近しているといううわさを聞きつけて真っ先にしたことは、ペリーウィンクルを壁に追い詰め、逃げられないように腕で囲い込みながら「私を殺す気か!」と責めることだった。

 殺す気とは穏やかではない。
 怯えるペリーウィンクルがなんとか気を奮い立たせて聞き出したところ、

『できることなら、そばにいてくれ。そばにいてくれないと、なにをしでかすかとヒヤヒヤしてなにも手につかん』

 と、またしても言われてしまった。

『そばにいるじゃない。今、私は中央の国にいるでしょう? 前よりずっと近いわ』

『そうだな。前よりは近くなった。だが、まだ足りないのだ』

 なにが足りないのだろうか。
 まるで飢えた獣みたいだ。何をあげたら、彼は満足するのだろう。

 中央の国へ来てからというもの、ヴィアベルのことを知っているはずなのに、知らない人のように感じることが増えてきた。
 ただの過保護な妖精だと思っていたが、そうではないような──とそこまで考えて、いつも思考が止まる。

 今回もよくわからなくなってきて、結局ペリーウィンクルは考えることを放棄した。
 だって今は、ヴィアベルのことよりひっ迫した問題がある。

「わかった。ごめん。もうのけ者にしたりしないから。今度は、ちゃんとお願いするから。だから、機嫌直してよ」

「絶対だな? この約束、たがえるなよ?」

「わーかったってば。それよりさ。ヴィアベルはさっき、‘’そんなことか”って言ったよね。どうして?」

「ああ、そうだ。ローズマリーはしっかりとリコリス尻軽女をいじめていた。つい先日など、妖精の茶会の作法もろくに出来なかったのを、彼女が成敗していたぞ」

 妖精たちは茶会が大好きだ。
 実は、人間と契約する妖精は、人間がひらく茶会が目当てだったりもする。
 妖精の世界には存在しない、おいしいお菓子やお茶。それらは、契約しないと手に入らないものなのだ。
 そのため、契約者はおいしいお菓子の作り方とお茶の入れ方も学ぶらしい。

「茶会で成敗? お茶をぶっかけたりしていたの?」

「いや……あの女、妖精を殺そうとでも思っているのか、それとも授業をよくよく聞いていないのか、よりにもよってアコナイトで茶を淹れようとしていてな。一体、どこから手に入れたのか……ローズマリーが気付いて、手からたたき落としたのだ。それをあの女は暴力反対だと喚いて……む。これではいじめにならないではないか」

「うん、そうだね。なんなら、命の恩人じゃない」
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