目指せ、婚約破棄!〜庭師モブ子は推しの悪役令嬢のためハーブで援護します〜

森 湖春

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三章

63 ミステリアス担当不思議系令息②

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(あぁぁぁ……面倒くさい……)

 そんな彼女を尻目に、ローズマリーは恋愛小説を読み終わった後の、達成感に満ちたうっとりとした顔で微笑んでいた。

「愛ですわ」

「ああ、愛だ。僕はトゥルシーを愛している」

 うっとりとつぶやくディルは、酒を飲んで深酔いしているようにも見える。

(ああ、なぜでしょう。私にはディル様がトゥルシー様を“観察対象として”愛していると言っているようにしか思えません……)

 おそらくそれは、ペリーウィンクルがディルルートのヒロインエンドと悪役令嬢エンドを知っているせいだろう。
 彼は最初からわりと好意的に接してくれるが、それは観察したいためであり、愛の言葉も必要あらばスラスラ言ってのける。

(この顔……ちょっとヘンタイっぽくて好きだったなぁ)

 顔が、胡散臭い。あと、声も。

 彼は興奮すると悦にいった声で延々しゃべる。
 ヘッドフォンをして通勤中にプレイする時は、それはもう大変だった。
 耳が溶けそう、もしくははらみそうな美声が延々聞こえてくるのである。
 もだえるのを我慢するあまり、つり革を握る手は握力がついた。
 そして前世のペリーウィンクルは、ついに特技・ポーカーフェイスを手に入れたのだ。

(見た目はミステリアス美青年なんだけど、中身がオタクっぽいのもまたオツ……)

 そして何より、声が良き! とペリーウィンクルはこっそり見えないところでガッツポーズした。

「それで……ディル様はどうして、わたくしの専属庭師へ賄賂を贈ろうと思ったのでしょうか? あいにく、この子は宝石の価値観などわかりません。それがどれだけ高価なものなのか、検討もつかないのです」

「贈り物の選択を誤ったな」

 ディルは興味を失ったように、持っていた宝石をぞんざいに投げた。
 大きな宝石が、ゴロリとソファの上を転がる。
 ローズマリーはそれをチラリと見遣ってから、「そうですわね」とおかしそうに笑った。

「花を贈るべきだった」

「それはいかがなものかと」

「なぜだ」

「花は愛する人へ贈るものですもの」

「そうか、それでは仕方ない」

 ローズマリーの言葉に、ディルは肩を竦める。
 彼は、転がしていた宝石を掴み上げ、無造作にジャケットのポケットへ仕舞い込む。
 ふくらんだポケットが、妙に滑稽だった。

「もうほとんど話してしまったことだし、ローズマリー嬢に頼むことにしよう」

「あら、良いんですの?」

「構わない。実は、このところトゥルシー嬢の様子がおかしくてな。何かに取り憑かれているというか、正気を失っているというか。さすがの僕も一人では妨害しきれなくなってきたので、盗まれる前にローズマリー嬢の専属庭師を懐柔して、万が一アルケミラ・モリスが盗まれてしまった場合はごまかしてもらおう、と考えた次第だ」

「そういうことでしたか。わたくし、てっきり……いえ、まぁでも、問題ありませんわ。もともとわたくしは、アルケミラ・モリスが盗まれたとしても、黙っているつもりでしたから」

「それはなぜだ?」

「恋する女の子を応援したいからですわ。わたくしの箱庭の花が、彼女の恋の一助になるのならば……むしろ本望です。もともと、ハニーサックルが盗まれた時も、黙っているつもりでした。白バラさえ盗まれなければ、わたくしはそれで良いのです」

「そうか」

 ディルはそれで納得したのか、静かに立ち上がった。
 そんな彼を、ローズマリーは観察するようにじっと見上げる。

「ディル様」

「なんだ」

「要件はそれだけだったのですか?」
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