65 / 122
三章
65 妖精と番①
しおりを挟む
妖精王の茶会。
南のガゼボで不定期に開催される妖精の茶会をそのように呼ばせているのは、学校長である。
彼は、南のガゼボを大切に思っている。
それは、南のガゼボが妖精王の持ち物だからということもあったが、それ以上に、自身の番と出会った思い出の場所を人に荒らされたくないという、私情がおおいに挟まれていた。
大仰な名前をつけられているが、南のガゼボで茶会を開催するのは簡単だ。
南のガゼボに植えてあるラスターリーフの葉に、必要事項を書くだけ。
日程によっては他の妖精と話し合う必要もあるが、大抵はそんな必要もない。
ラスターリーフは、葉の裏に傷をつけると黒く変色する性質がある。
異国の地では、ハガキという手紙の代わりにも使われることがあるらしい。
妖精たちはその性質を利用して、ラスターリーフを予約表代わりに使っているのだ。
とはいえ、妖精とは気まぐれ──というか面倒くさがりな生き物である。
わざわざ予約するのも面倒だし、日程を調整するのも面倒だし、茶会の準備をするのも面倒だし、招待するのも面倒で、片付けなんて論外。
そんな手間をかける暇があったら、人と契約して茶会に招かれた方がマシだし、なんなら箱庭で蜜を飲めればそれで良いと思っている。
そういうわけだから、南のガゼボはいつだって使い放題だ。
現に、ヴィアベルがラスターリーフを確認した時も、予約は一件も入っていなかった。
二十センチほどの長楕円形をしている葉に、自分の名前と、茶会の日時、それからガゼボへ入ることを許可する人の名前を書く。
茶会の日時を三日月の夜と決めているのは、その時間だとヴィアベルの力が最も強く発揮されるからだ。
ペリーウィンクルの願いを全力で叶えるという、ヴィアベルの本気がうかがえる。
「やぁ、ヴィー。今日はえらく上機嫌じゃないか」
カラスアゲハのような羽をした妖精が、ヴィアベルの周りを飛び回る。
ヴィアベルがうざったそうに手で振り払うと、妖精は「つれないなぁ」とクスクス笑った。
「私の周りを飛び回るな。鱗粉がつく」
「そう邪険にしないでおくれ。寂しいではないか」
妖精は、ポンと煙を立てて姿を消す。
代わりに現れたのは、どこもかしこも真っ黒な人だった。
黒い肌に、漆黒の髪。目は結膜が黒で虹彩が金色をしている。
彼は闇から生まれた妖精で、名前をフィンスターニスという。
ヴィアベルからしてみたら、親のような上司のような存在であり、妖精王の側近でもある。
「あぁ、こわいこわい。番を手に入れる前の妖精というのは気が立っていて困る。まだ手に入れてないのかい? もう何年もたっている気がするのだけど」
「四年だ」
「四季の国だと十二年だね。十二年もあれば、そろそろではないの? あぁ、ごめんごめん。そろそろだから気が立っているんだね」
「……」
「だが、あのヴィアベルが番と巡り合うとはなぁ……すっかり雄の顔になって。世話をした妖精だからかな、尚のこと嬉しく思うよ」
「……」
ムスリと顔をしかめてだんまりを決め込むヴィアベルに、フィンスターニスは面白がっていることを隠しもしない。
だが、嬉しいというのもうそではなかった。
自分と同じ。
それは嬉しくもあり、羨ましくもある。
南のガゼボで不定期に開催される妖精の茶会をそのように呼ばせているのは、学校長である。
彼は、南のガゼボを大切に思っている。
それは、南のガゼボが妖精王の持ち物だからということもあったが、それ以上に、自身の番と出会った思い出の場所を人に荒らされたくないという、私情がおおいに挟まれていた。
大仰な名前をつけられているが、南のガゼボで茶会を開催するのは簡単だ。
南のガゼボに植えてあるラスターリーフの葉に、必要事項を書くだけ。
日程によっては他の妖精と話し合う必要もあるが、大抵はそんな必要もない。
ラスターリーフは、葉の裏に傷をつけると黒く変色する性質がある。
異国の地では、ハガキという手紙の代わりにも使われることがあるらしい。
妖精たちはその性質を利用して、ラスターリーフを予約表代わりに使っているのだ。
とはいえ、妖精とは気まぐれ──というか面倒くさがりな生き物である。
わざわざ予約するのも面倒だし、日程を調整するのも面倒だし、茶会の準備をするのも面倒だし、招待するのも面倒で、片付けなんて論外。
そんな手間をかける暇があったら、人と契約して茶会に招かれた方がマシだし、なんなら箱庭で蜜を飲めればそれで良いと思っている。
そういうわけだから、南のガゼボはいつだって使い放題だ。
現に、ヴィアベルがラスターリーフを確認した時も、予約は一件も入っていなかった。
二十センチほどの長楕円形をしている葉に、自分の名前と、茶会の日時、それからガゼボへ入ることを許可する人の名前を書く。
茶会の日時を三日月の夜と決めているのは、その時間だとヴィアベルの力が最も強く発揮されるからだ。
ペリーウィンクルの願いを全力で叶えるという、ヴィアベルの本気がうかがえる。
「やぁ、ヴィー。今日はえらく上機嫌じゃないか」
カラスアゲハのような羽をした妖精が、ヴィアベルの周りを飛び回る。
ヴィアベルがうざったそうに手で振り払うと、妖精は「つれないなぁ」とクスクス笑った。
「私の周りを飛び回るな。鱗粉がつく」
「そう邪険にしないでおくれ。寂しいではないか」
妖精は、ポンと煙を立てて姿を消す。
代わりに現れたのは、どこもかしこも真っ黒な人だった。
黒い肌に、漆黒の髪。目は結膜が黒で虹彩が金色をしている。
彼は闇から生まれた妖精で、名前をフィンスターニスという。
ヴィアベルからしてみたら、親のような上司のような存在であり、妖精王の側近でもある。
「あぁ、こわいこわい。番を手に入れる前の妖精というのは気が立っていて困る。まだ手に入れてないのかい? もう何年もたっている気がするのだけど」
「四年だ」
「四季の国だと十二年だね。十二年もあれば、そろそろではないの? あぁ、ごめんごめん。そろそろだから気が立っているんだね」
「……」
「だが、あのヴィアベルが番と巡り合うとはなぁ……すっかり雄の顔になって。世話をした妖精だからかな、尚のこと嬉しく思うよ」
「……」
ムスリと顔をしかめてだんまりを決め込むヴィアベルに、フィンスターニスは面白がっていることを隠しもしない。
だが、嬉しいというのもうそではなかった。
自分と同じ。
それは嬉しくもあり、羨ましくもある。
0
あなたにおすすめの小説
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。
絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。
今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。
オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、
婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。
※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。
※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。
※途中からダブルヒロインになります。
イラストはMasquer様に描いて頂きました。
転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!
くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。
ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。
マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ!
悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。
少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!!
ほんの少しシリアスもある!かもです。
気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。
月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
転生賢妻は最高のスパダリ辺境伯の愛を独占し、やがて王国を救う〜現代知識で悪女と王都の陰謀を打ち砕く溺愛新婚記〜
紅葉山参
恋愛
ブラック企業から辺境伯夫人アナスタシアとして転生した私は、愛する完璧な夫マクナル様と溺愛の新婚生活を送っていた。私は前世の「合理的常識」と「科学知識」を駆使し、元公爵令嬢ローナのあらゆる悪意を打ち破り、彼女を辺境の落ちぶれた貴族の元へ追放した。
第一の試練を乗り越えた辺境伯領は、私の導入した投資戦略とシンプルな経営手法により、瞬く間に王国一の経済力を確立する。この成功は、王都の中央貴族、特に王弟公爵とその腹心である奸猾な財務大臣の強烈な嫉妬と警戒を引き寄せる。彼らは、辺境伯領の富を「危険な独立勢力」と見なし、マクナル様を王都へ召喚し、アナスタシアを孤立させる第二の試練を仕掛けてきた。
夫が不在となる中、アナスタシアは辺境領の全ての重責を一人で背負うことになる。王都からの横暴な監査団の干渉、領地の資源を狙う裏切り者、そして辺境ならではの飢饉と疫病の発生。アナスタシアは「現代のインフラ技術」と「危機管理広報」を駆使し、夫の留守を完璧に守り抜くだけでなく、王都の監査団を論破し、辺境領の半独立的な経済圏を確立する。
第三の試練として、隣国との緊張が高まり、王国全体が未曽有の財政危機に瀕する。マクナル様は王国の窮地を救うため王都へ戻るが、保守派の貴族に阻まれ無力化される。この時、アナスタシアは辺境伯夫人として王都へ乗り込むことを決意する。彼女は前世の「国家予算の再建理論」や「国際金融の知識」を武器に、王国の経済再建計画を提案する。
最終的に、アナスタシアとマクナル様は、王国の腐敗した権力構造と対峙し、愛と知恵、そして辺境の強大な経済力を背景に、全ての敵対勢力を打ち砕く。王国の危機を救った二人は、辺境伯としての地位を王国の基盤として確立し、二人の愛の結晶と共に、永遠に続く溺愛と繁栄の歴史を築き上げる。 予定です……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる