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一章 一年目なつの月
02 なつの月9日、港に降り立つ少女②
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家付き妖精、シルキー。
絹を着る人を意味するその名を持つ妖精は、その名の通り、絹の服を好んで身につける。
その性格は有能で真面目。炊事洗濯から掃除に片付け、屋敷の見回りなど、家のことは何でも行ってくれる。
とある古い屋敷に一人で住んでいた老婆は、「シルキーが甲斐甲斐しく働いてくれたお陰で、困ったことは何もなかったわ」と言っていたという。それくらい、シルキーは有能なのである。
ここまでなら、特に問題はないように思えるだろう。
家に万能な家政婦兼警備員がついているーーその程度に思えば良い。
もちろん、理由はそれだけではない。
このシルキーという妖精は、主人を気に入らなければ嫌がらせをして家から追い出してしまうのである。
望まれざる侵入者には容赦せず、あらゆる手段で追い出そうとする。ちょっかいだけなら可愛いもので、首を絞め殺すことさえあるという、恐ろしい一面を持っているのだ。
さすが、妖精。一筋縄にはいかない。
おかげでアーサーは困ることになった。
売りに出したものの、何人もの主人がシルキーに追い出されたからだ。
その日もアーサーは、通算三十四人目の主人がシルキーに追い出されたのだとイーヴィンの母に愚痴りに来ていた。
そんな弟に母は、ポンと何か良いことでも思いついたように手を打った。
「あら。それなら、イーヴィンはどうかしら?」
成人を迎えたばかりの娘は、そろそろ独り立ちしなくてはならない。
彼女の下には五人も弟がいて、家が狭くて仕方がないのだ。
その上、彼女は男ばかりで育ったせいか、少々羞恥心が足りないようである。ここらで一人暮らしでもさせて女性らしさを知って貰いたいと母は思っていた。
とはいえ、女性の一人暮らしは何かと心配である。
子供の面倒を見るのは上手だが、家事も片付けも下手な彼女が果たして生きていけるのか。
だが、シルキーが居れば百人力だ。
主人として認められさえすれば、家事の心配もしなくて良いし、防犯だって問題ない。
そんなわけで、両親と五人の弟に見送られ、イーヴィンはプティメルバ島にやって来たのである。
アーサーから渡された地図を広げ、イーヴィンは「ふむ」としばしそれを見つめた。
「今、いるのは港でしょ?で、おじ様の牧場がここ。この道をこう通って……さぁ、グズグズしていられないわ。おじ様の牧場は確か、あっちだったわよね?」
なんとも怪しい台詞を言いながら、イーヴィンは地図をポケットにしまった。
足元に置いていた四角くて茶色くてちょっとレトロなトランクを持って、彼女はスキップでもしそうなくらい上機嫌な様子で歩き出す。その足取りに、迷いはない。
定期船の船長はパイプを咥えながらその様子を心配そうに見つめていたが、少女の背中はやがて見えなくなった。
「大丈夫かねぇ」
この島にいるシルキーは、ある意味有名である。船乗りたちはシルキーに認められる主人はいるのだろうかと賭けをしているくらいだ。
船長は『現れる』に掛けている。三十五回目の正直がありますように、と船長はパイプをくゆらせた。
絹を着る人を意味するその名を持つ妖精は、その名の通り、絹の服を好んで身につける。
その性格は有能で真面目。炊事洗濯から掃除に片付け、屋敷の見回りなど、家のことは何でも行ってくれる。
とある古い屋敷に一人で住んでいた老婆は、「シルキーが甲斐甲斐しく働いてくれたお陰で、困ったことは何もなかったわ」と言っていたという。それくらい、シルキーは有能なのである。
ここまでなら、特に問題はないように思えるだろう。
家に万能な家政婦兼警備員がついているーーその程度に思えば良い。
もちろん、理由はそれだけではない。
このシルキーという妖精は、主人を気に入らなければ嫌がらせをして家から追い出してしまうのである。
望まれざる侵入者には容赦せず、あらゆる手段で追い出そうとする。ちょっかいだけなら可愛いもので、首を絞め殺すことさえあるという、恐ろしい一面を持っているのだ。
さすが、妖精。一筋縄にはいかない。
おかげでアーサーは困ることになった。
売りに出したものの、何人もの主人がシルキーに追い出されたからだ。
その日もアーサーは、通算三十四人目の主人がシルキーに追い出されたのだとイーヴィンの母に愚痴りに来ていた。
そんな弟に母は、ポンと何か良いことでも思いついたように手を打った。
「あら。それなら、イーヴィンはどうかしら?」
成人を迎えたばかりの娘は、そろそろ独り立ちしなくてはならない。
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その上、彼女は男ばかりで育ったせいか、少々羞恥心が足りないようである。ここらで一人暮らしでもさせて女性らしさを知って貰いたいと母は思っていた。
とはいえ、女性の一人暮らしは何かと心配である。
子供の面倒を見るのは上手だが、家事も片付けも下手な彼女が果たして生きていけるのか。
だが、シルキーが居れば百人力だ。
主人として認められさえすれば、家事の心配もしなくて良いし、防犯だって問題ない。
そんなわけで、両親と五人の弟に見送られ、イーヴィンはプティメルバ島にやって来たのである。
アーサーから渡された地図を広げ、イーヴィンは「ふむ」としばしそれを見つめた。
「今、いるのは港でしょ?で、おじ様の牧場がここ。この道をこう通って……さぁ、グズグズしていられないわ。おじ様の牧場は確か、あっちだったわよね?」
なんとも怪しい台詞を言いながら、イーヴィンは地図をポケットにしまった。
足元に置いていた四角くて茶色くてちょっとレトロなトランクを持って、彼女はスキップでもしそうなくらい上機嫌な様子で歩き出す。その足取りに、迷いはない。
定期船の船長はパイプを咥えながらその様子を心配そうに見つめていたが、少女の背中はやがて見えなくなった。
「大丈夫かねぇ」
この島にいるシルキーは、ある意味有名である。船乗りたちはシルキーに認められる主人はいるのだろうかと賭けをしているくらいだ。
船長は『現れる』に掛けている。三十五回目の正直がありますように、と船長はパイプをくゆらせた。
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