乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春

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一章 一年目なつの月

03 なつの月9日、シルキーの同居人①

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 アーサーに渡されていた鍵を、玄関扉の鍵穴に差し込む。ガチャリと音を立てて解錠されたことにほんの少しの安堵を滲ませて、イーヴィンは鍵をポケットにしまった。

「ふぅ……」

 イーヴィンの緊張も無理はない。
 三十四人の挑戦者のうち、十二人は玄関扉を解錠することすら叶わなかったのだ。
 まずは第一関門突破である。

(シルキーは、私を気に入ってくれるかな)

 家の前の石畳に置いていたトランクを手にして、イーヴィンは殊更ゆっくり深呼吸をした。こんなに緊張するのは、学校のテスト以来である。

 ドキドキする胸を押さえて「落ち着け」と呪文のように唱えながら、イーヴィンは目の前に建つクラシカルな雰囲気の家を眺めた。
 白い漆喰の壁に、くすんだ赤い屋根。古めかしいが、手入れのされた家だ。

 飛んでいた蝶に誘われるように家の周りを見れば、お茶や料理に使えそうなハーブの数々が植えられている。センス良く並べられたそれは、王都のハーブ園のように丁寧に手入れがされていた。

「素敵なお家」

 そう言いながら、イーヴィンは、この家にどうしてシルキーがいるのだろうと不思議に思った。
 本来、シルキーは名家や大金持ちの屋敷にいるものである。だというのに、この家は屋敷とも呼べないくらい小さい。イーヴィンが一人で住むには広過ぎるくらいではあるが。

「実は秘密の通路があって、大きな屋敷に繋がってるとか?」

 そんなわけないないと苦く笑いながら、イーヴィンはドアノブを回した。

 ーーカチリ、ギィィ。

 ドアノブは引っかかることなく回った。そのままゆっくりと手を引けば、扉が開く。
 恐る恐る見た玄関の先は、廊下だった。
 飴色に色付いた、歴史を感じる板張りの廊下は、傷はあるもののやはり綺麗に磨かれている。

 イーヴィンはそのまま廊下の奥へと視線を向けて、目を見開いた。
 真っ白な人が、イーヴィンと同じように驚いた顔をして立っている。
 見た目はイーヴィンより少々上の、二十代くらいだろうか。短く切り揃えられた銀糸のような髪が、開いた扉から吹き込んだ風にさらりと揺れる。
 薄いグレーに薄い紫を溶かしたような、不思議な色をした目と、目が合った。

 しばらく見つめ合った後、最初に動いたのは相手の方だった。
 足音の代わりに絹が擦れるような音を微かに立てながら、すうっとイーヴィンの前に進む。それから彼女の目の前で洗練された紳士のような仕草で礼をした。

 儚げな顔に、柔らかな微笑みが浮かぶ。
 無表情な顔が笑うと、踏み荒らされていない雪の中に咲き始めの薔薇を見つけたような、華やかさがあった。

(この人は……男なの?)

 
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