乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春

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二章 一年目あきの月

22 あきの月30日、お月見泥棒②

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 最初にやって来たのは、小さな子供の集団だった。
 ゲーム内では名もない村の子供たちは、こういうイベントの時か村に行った時にしか会うことがない。

「おつきみどろぼうです!」

 そう言ってやって来た小さな泥棒たちに、シルキーとイーヴィンは手作りの菓子を渡した。
 小さな泥棒たちはキャアキャア笑いながら、口々に「ありがとう」と言って駆けていく。
 これから他の家も回るのだろう。全部の家を回るつもりなら、長居はしていられない。

 無邪気な子供たちを見ていたら、イーヴィンはほんの少しだけ寂しくなった。
 実家を出て、二ヶ月が経つ。小さな子供を見て、弟たちはどうしているだろうかと不意に気になったのだ。

(手紙を書くって約束したのに、書いてなかったなぁ)

 牧場生活序盤でいろいろありすぎて、すっかり忘れていた。
 イーヴィンは忙しい両親に代わって弟たちの面倒を見ていたが、彼女がいなくなってからはどう生活しているのだろう。

(なんだかんだ騒がしい毎日を過ごしているんだろうな)

 この家にはシルキーがいるからか、寂しいと思うことはほとんどない。
 それでも、両親と五人の弟に囲まれて生きてきたイーヴィンには、この家は静か過ぎた。
 こうして以前の生活のような騒がしさに触れた後は、余計に静かに感じてしまう。

 楽しい祭りの最中だというのに、ションボリと「みんな、どうしてるかな」と呟いたイーヴィンに、シルキーは辛そうに顔を歪めた。

 静かな室内に、サラサラと絹が擦れる音がする。
 イーヴィンに近づいたシルキーは、彼女の背中にぽすんと頭をくっつけた。
 ゴリゴリと頭を押し付ける仕草は甘える猫のようで、イーヴィンはくすぐったそうに肩を竦める。

 肩口に移ったシルキーの頭を撫でていたら、不意に彼が顔を上げた。灰紫の目が「大丈夫?」と、言いたげに見つめている。
 その目を見た瞬間、イーヴィンの心臓がドキリとやけに大きく脈打った。

「あれ?」

 とっさに胸に手を当てた彼女に、シルキーは首を傾げた。心配しているのか、彼はイーヴィンを背後から抱き締めるようにして、覗き込んでくる。

 ますます至近距離で見つめ合うことになり、イーヴィンは戸惑った。
 弟相手だったら「近いって」と笑って押し退けているのに、なぜか出来ない。

(いや、そもそもシルキーが自分からこんなに近くにきたことなんて、あった?)

 綺麗な顔は近くで見るものではない、とイーヴィンは思った。
 心配してくれるのは嬉しいが、彼が近くにいるとたくさん走った後のように息が上がり、心臓が跳ねるのだ。
 自分からはホイホイ抱きついていたくせに、イーヴィンは困り果てた。

(な、にこれ……?)

 これは一体どういうことだ。

 混乱するあまり、イーヴィンはシルキーを引き剥がすことも忘れて固まっていた。
 シルキーは何を考えているのか、再び彼女の背中に頭を戻してグリグリと甘えている。ただし、その手はしっかりと彼女の体をホールドしていた。

「ばんわー!はじめまして、オレ、リアン!お月見泥棒に来たぜ!」

「あ、どうも」

「……」

 運悪くその場へ突撃してしまった男主人公ことリアンは、深く頭を下げながら後ろ足で去った。つまり、見なかったことにしたのである。

 彼は後に語る。

「シルキーって綺麗だけどめっちゃ怖いんだ。あれさぁ、目から殺人光線出せるんじゃね?」
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