61 / 110
五章 二年目なつの月
59 なつの月27日、酪農まつり②
しおりを挟む黒板に書き上げたのは、『モア』の二文字。
それくらい言えよとイーヴィンは突っ込みたくなったが、そうすると話が脱線しそうなので、おとなしく口を噤んでいた。
(ほら、やっぱり)
結婚式でのモアの様子からして、彼女とファーガルはどう考えても両思いである。
(第三者が手を貸して拗れる恐れもあるし、ここは知らないふりをして逃げるべきかなぁ)
盛り上がっているリアンには悪いが、正直なところ、手伝いたくはない。
貴重な、最後の婿候補を失ったのだ。少しくらい、感傷に浸りたい。
乙女ゲームに転生した物語なら、次々と攻略対象を悪役令嬢に奪われるヒロインといった所だ。
残念ながら、イーヴィンにはザマァされるような黒歴史はないし、モアとの付き合いは良好なので意地悪されているわけではない。
(牧場生活ゲーム程度で根を上げているんだもの。乙女ゲームの世界に転生しなくて正解だったのかもしれないわ)
とはいえ、隣でどんよりしているクマさんを放置できるほど、彼らとの仲が軽薄でないから困る。
(あー……来なければよかったかも)
後悔しても、もう遅い。
シルキーと優勝の喜びを分かち合いたいとかなんとか言って逃げれば良かったと思いながら、イーヴィンは貰ったばかりの『酪農まつりデザート部門優勝』のトロフィーを握りしめた。
(まつりまでは、順調な日だったなぁ)
熱弁をふるうリアンの、非現実的な案に「却下」と言いながら、イーヴィンはどうしてこうなったと唸った。
どうしてこうなったのか。
思い返すのは、少し前のこと。
なつの月、中旬。
イーヴィンの貯金はとうとう動物小屋とウシを手に入れるだけの額に到達した。
すぐにでもウシを牧場に迎えたくて仕方がないイーヴィンは、恒例になっていたツリーハウスでのお茶会の場で、ファーガルに無理を言って、動物小屋建設の予定をねじ込ませてもらった。
ついでに、打ち捨てられていたような有様の、牧草を貯めておくサイロの修理依頼も忘れない。
(うんうん、ファーガルには感謝だわ)
サイロの修理に合わせて、牧草地の端をいくらか刈り取って牧草を用意したイーヴィンは、すぐにでも動物屋に駆け込みたい気持ちだったが、残念ながらローナンはハネムーン旅行中である。
数日間のハネムーン旅行から戻ったばかりのローナンの尻を叩きながら、彼イチオシのウシの中の一頭を買い、マツダサンと名付けて飼い始めた。
(ヤマダサンに合わせて同じ茶色のジャージーを選んだけど、あれってチート効果よね。初めてのウシでジャージーは選べない仕様だったもの)
案の定、飼育したばかりだというのに、マツダサンからとれたミルクはAランクだった。
毎日ブラシをかけて、撫でて話しかけて、せっせと世話をすれば、そのうちSランクのものがとれるようになるだろう。
ウッシッシと悪代官のような笑みを浮かべるイーヴィンに、マツダサンは「可愛いのに残念な子」と言わんばかりにモゥと鳴いて草を食んでいた。
念願の動物小屋とウシを手に入れたイーヴィンは、ミルク瓶に入れたプリンを引っさげて、本日午前中に開催されていた酪農まつりに参戦した。
酪農まつりとは、なつの月三週目の日曜日に開催される品評会である。
ウシの愛情度を競うコンテストやミルクの品質を競うコンテスト、それからミルクを使用した料理のコンテストが行われる。
このイベントで三位以内に入賞すると、島民全員の好感度がアップするという、素晴らしいシステムが『ハーモニーハーベスト』にはあった。
0
あなたにおすすめの小説
子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!
屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。
そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。
そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。
ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。
突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。
リクハルド様に似ても似つかない子供。
そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる