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七章 二年目ふゆの月
79 ふゆの月13日、食堂兼酒場③
しおりを挟む「それにしても、マキオが魔女の弟子っていうのがビックリ。あの魔女が弟子を取るのも信じられない。私なんて、ドアをノックするだけで怒鳴られたのに」
「魔女様はお優しい方だぞ。私には一度だって怒鳴ったことはない。研究熱心で、いつも新しい薬を開発している、勤勉な人だ。もとはお嬢様なのに、驕ったところもない。怒ったのは、君が礼儀を欠いたからではないか?」
「まぁ、それはそうなんだけど……」
礼儀知らずだったのは、確かだ。
ノックの回数のマナーなんて、イーヴィンは知らなかった。
だが、マキオの語る魔女は、イーヴィンの知る魔女とは随分違うらしい。
お嬢様だったという話も初耳だし、接点を持たないようにしていたから知らないだけで、本当は善い魔女なのかもしれない。
リアンは魔女の弟子であるマキオを怪しい奴認定したようだ。
興味津々にしていたのが嘘だったように、スンとしている。一気に興味を失った彼は、イーヴィンの前に広げたメニュー表を覗き込んでいたが、どことなく警戒しているように見えた。
「マキオ、お腹空いているんでしょ?私とリアンはチーズフォンデュを食べにここへ来ているんだけど、あなたはどうする?」
「すまないが、私はチーズが苦手なんだ。私は私で頼んでも構わないか?」
「いいわよ。あまり高いものじゃなければ」
そうは言っても、ここは田舎島にたった一軒しかない食堂である。王都の高級レストランにあるような、目玉が飛び出る価格の品物はない。
「なんだ、イーヴィンが奢るのか?」
「うん。お金がなくて行き倒れてたのを拾ったからね。拾ったからには、多少は面倒みないと」
「えぇー……」
不満を漏らすリアンを無視し、イーヴィンは二人分のチーズフォンデュを頼んだ。リアンもイーヴィンもよく食べる方なので、パンを多めにしてもらうのも忘れない。
マキオは少し悩んでから、ボンゴレリゾットを頼んでいた。
「ねぇ、マキオ。高いのはダメって言ったけど、遠慮しなくても大丈夫よ?」
「いや、これで十分だ」
もともと少食なんだと言うマキオに、イーヴィンは訝しげにしていたが、ゆっくり休みながら食べる様子にあながち嘘でもないのだろうと思った。
チーズフォンデュに茹でたブロッコリーをドボンさせてしまったリアンには、罰ゲームと称してデザートのケーキを奢らせて、イーヴィンはご満悦である。
会計を終えて、ニコニコとそれはもう可愛らしく微笑みながら、再び厚着しだすイーヴィンに、マキオが小瓶を差し出した。
「なぁに?これ」
「魔女様のレシピの栄養ドリンクだ。そんなに厚着していたら、大変だろう?今日の礼だ、遠慮なく使ってくれ」
「わぁ!ありがとう!」
魔女に何をされるか分からないため、今年は行くのを躊躇っていたところだった。だから、イーヴィンは嬉しくて仕方がない。
輝かんばかりの笑顔を振りまく彼女に「無防備すぎだろ」とリアンが突っ込んだが、遅かった。
頰についたケーキのかけらを見つけたマキオが、素早くそれを摘んでパクンと食べてしまったのである。
あっという間のことにリアンとイーヴィンはポカンとマキオを見ていたが、先に我に返ったリアンがマキオに飛びかかって怒り始めたので、イーヴィンは照れる暇もなかった。
警戒心も露わにフーフーと威嚇する猫のようにマキオを睨み付けるリアンに護衛されながら、三人で帰る家路はなかなか大変なものがある。
それでも、わちゃわちゃと賑やかなのは嫌いではなく、イーヴィンは苦笑いを浮かべながらも悪い気はしなかった。
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