乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春

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八章 二年目はるの月

98 はるの月11日、シルキーのみる夢②

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「あ」

 目を開けると、イーヴィンが真っ赤な顔をしてこちらを見ていた。
 デジャヴを感じながら、夢とは違う展開に、内心では残念だとため息を吐く。
 夢ではあれほど積極的だったシルキーは、現実ではとても弱気だ。

 どうやら彼女は、シルキーの寝顔を見ていたらしい。
 目が合うなり飛び退いて、あうあうと恥ずかしそうにしている様は少し色っぽく、唇はまるで朝露に濡れた草花のようにしっとりとして見えた。
 そんな風に見えたのは、夢の余韻が残っていたせいかもしれない。

 出会った頃より幾分シャープになった輪郭に、相変わらずクリクリとした大きな目。ほっそりとした首と肩、ふっくらと女性らしくなってきた胸に、きゅっと引き締まった腰。

 大人になったなぁ。

 たった二年で、彼女はずいぶんと成長したようだ。
 誰よりも近い場所で見守ってきたのは他ならぬシルキーなのに、改めて彼女の成長を知る。
 そんな彼女にシルキーが思うのは、愛しさばかり。

 好き。愛してる。

 言葉にして伝えられないことが、こんなにも苦しいとは思わなかった。
 仕草や行動だけじゃ、足りない。
 その耳に、この口で、愛を囁けないことが、辛かった。

 でも、もしかしたら、そう遠くない日に、彼女はシルキーの言葉を理解出来るようになるかもしれない。
 女神との交渉が上手くいって、魔女にツリガネソウを渡せたら。その見返りに、彼女は『妖精の言葉を理解する薬』を貰う約束をしていたからだ。

 そうしたら、真っ先に彼女へ告げたい。

 好き。愛してる。お願いだから、僕の恋人になって欲しい。

 言いたいことが、たくさんあった。
 今となっては、どの口が他の男に嫁いで欲しいなどと言えたものか、理解に苦しむ。
 そんなの、絶対に無理だ。
 昨夜、マキオに押し倒されるイーヴィンを見て、シルキーは思い知った。

 彼女は、誰にも譲れない。絶対に、だ。
 彼女の隣にシルキー以外の誰かが立つならば、彼は容赦なく排除する。そう、マキオの首を躊躇なく締めたように。

 リアンもファーガルもローナンもハリーファも、どんなに素敵な男がやって来ようと、シルキーは認めない。
 イーヴィンが選んだ男ならばあるいは、なんて思っていた頃もあったが、あの時の自分は無知だったのだとシルキーは断言できる。

「あの、シルキー?」

 イーヴィンの戸惑うような声に、シルキーは「なぁに?」と首を傾げた。
 険しい表情を浮かべて何か考えている彼が、いつもの穏やかな表情を浮かべるのを見て、イーヴィンはホッと息を吐く。

「もしかして、まだ寝ぼけている?」

 そんなことはない、とシルキーは首を振った。
 ギシリと音を立ててロッキングチェアから立ち上がると、イーヴィンがびくっと体を引く。

 彼女の様子にシルキーは驚いて、それから悲しくなった。
 思い出すのは、昨夜、マキオに組み敷かれていたイーヴィンだ。
 マキオは魔女だと分かったが、もしかしたら過去のトラウマを上塗りして更に男嫌いになってしまったのだろうか。
 彼女は、明らかに動揺していた。

「そ、そっか。なら、いいの。今日は、女神様のところに行くから、早めに仕事を始めることにしたの。朝ごはんは、仕事のあとに食べるから、ゆっくり用意してくれる?」

 ふいっとイーヴィンの視線が、壁の時計に向かう。
 時間を気にしている風を装っているが、シルキーには彼女が視線を合わせないようにしているようにしか見えなかった。

 出来れば仕事の前に食べさせてあげたかったが、壁の時計を見れば既に六時を過ぎている。
 申し訳なさそうに眉を下げるシルキーに「昨日は色々あったから仕方ないよ」と言って、イーヴィンは外へ出て行った。

『前途多難、ですね』

 魔女の件が片付けば、イーヴィンに告白してハッピーエンド。あわよくば、魔女から人間になる薬を貰って大団円。
 そんな妄想をしていたシルキーは、楽観視し過ぎていたかと肩を落とした。

 男性恐怖症の女性から想いを寄せて貰う方法なんてあるのだろうか。

 キッチンに立ってエプロンをつけながら、シルキーは重々しくため息を吐いた。
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