勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、戦いに臨む

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「――はて、あれはなんじゃ……?」

 眠りながらも展開していた索敵スキルに何かが反応するのと、怪訝そうに老爺が呟くのは同時だった。
 幼女を避けながら跳ね起きた俺は臨戦態勢を取りつつ馭者席に身を乗り出す。
 眉の上にかざした手の先――
 遥か彼方の街道から土煙を上げて近付いて来る何かがいる。
 よく眼を凝らして観察してみると、それは狼に跨った妖魔だった。
 顔はボロボロのフードに隠されて視えない。
 だが――その矮小な体躯を見るまでもなく推測できる。
 狼を騎乗とし辺境で略奪を繰り返すゴブリン――
 おそらくゴブリンライダーに違いない。
 どこかの農家の納屋から盗んだのだろう。
 いっちょ前に農耕用の大鎌なんぞを武器に構えている。

「な、なんじゃあいつは!?」

 驚きの声を上げる老爺。
 無理もあるまい。
 きっと間近で妖魔を見掛けるのは初めてなのだろう。
 国が教会の助力を得て設置された街道や都市――村などには、妖魔避けの結界が張られており基本的に人に仇為す存在は侵入できない。
 だからこそ戦闘技能を持たない一般人がこうして安全に行き交う事が出来る。
 よって皮肉な事に一番危険なのは――
 悪意を以て襲い掛かる人間、などになるわけだ。
 俺がさっき老爺に忠告したのもそういう事情からだ。
 神の御力の下、万能に思える結界。
 しかし――残念ながら何事にも例外は存在する。 
 勿論結界で防げないくらい強大な力を持つ存在は論外だが――
 この結界の難点は自然界に存在する野生の動物や弱すぎる妖魔に対しては効果が薄くなる傾向があるのだ。
 これは妖魔全般を喰い止めるという汎用性を求めた結界の仕様なので仕方ない。
 それに俺達の様な冒険者が喰いっぱぐれないのはこの仕様のお陰でもある。
 ならばこっからは俺の仕事だな。
 俺は剣帯に鞘を通すと荷馬車から飛び降りる。

「おい、若いの――いったい何を――」
「乗せてもらったせめてもの礼だ。
 先行してちょっとあの妖魔を倒してくる」
「じゃが、それではお前さんに危険が――」
「このままの方がよっぽど危険だろ。
 爺さんはその娘が起きない様に見ててくれ。
 せっかく気持ちよく寝てるんだ。
 なにも怖い目に遭わせることはない。
 な~に、いくらロートルとはいえあんな妖魔の一匹くらいに遅れは取らないさ。
 んじゃ――行ってくる」
「頼むぞ、若いの!
 じゃが――決して無理はするなよ!」

 驚きながらも応援してくれる声を背に俺は前方へと駆け出す。
 この場合一番怖いのは目の前のこいつが囮で、俺が荷馬車から離れた瞬間、周囲から伏兵に襲い掛かられることだが――
 幸いなことに索敵スキルが捉えているのはゴブリンライダーのみだ。
 これだけなら何とでもなる。
 走りながらも俺は基本魔術<風華>を無音詠唱――
 薄い空気の対流が俺を優しく包み込む。
 残念ながら俺に魔術師の素質はない。
 派手な攻撃魔術や補助呪文は取り扱う事が出来ないのだ。
 つまり遠方から一方的に妖魔を撃退することや飛行して近付くことは不可能。
 なので――誰でも扱える基本魔術を色々弄って扱うことを覚えた。
 今俺が展開したのは簡易的な風の障壁だ。
 防護専門の魔術ほどではないが防御力も上昇するし、何より走る際の風の抵抗を零に出来るので非常に重宝する魔術だ。
 魔術と並行しながら身体に眠る闘気も活性化、循環を図る。
 戦士職なら誰でも出来る基本的な業だがこれをするのとしないのでは大違いだ。
 若い頃に戻ったかのような全能感を感じながら俺は矢のように駆ける。
 相対的にこっちに向かってくるゴブリンライダーが間近に迫る。
 その顔はフードに隠され見えないが、勝ち誇ったように大鎌を振り上げる。
 奴からすれば無防備に突進してくる俺は馬鹿な獲物としか思えないのだろう。
 だがそれは戦闘中に決して感じてはならない思考――つまり驕りだ。
 奴の敗北はこの瞬間決定した。

「魔現刃(マギウスブレード)――<烈火>!」

 到底届かぬ間合いで俺は高速抜刀――連続発動させた基本魔術<火焔>を剣先に纏わせ具現化――ゴブリンライダー目掛け全身全霊で振り下ろす。
 何が起きたのか理解できなかったのだろう。
 騎乗していた狼共々両断された奴はどこか間の抜けた様子で自らを見下ろし――霞のように消滅していった。

「ふう……何とかなったな」

 カラン、と音を立てて転がり落ちた妖魔討伐の証――魔石――を拾いながら俺は額に浮かぶ汗を拭う。
 最初から出し惜しみ無しの全力。
 それでFランク相当の妖魔に辛勝なのだから俺も衰えたもんだ。

「あいつらが俺を追い出すのも少し分かってきた気がするな……」

 体力的に厳しいし、やっぱり中年にはこの辺が潮時なのかもしれない。
 俺の勝利に喜びながら手を振る老爺に手を上げ応じつつも――
 一抹の寂寥感と共に納得してしまう俺だった。

 
 
 

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