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おっさん、約束する
しおりを挟む「――はい、これで終わり」
「その年齢でこれだけの呪文を扱うのか……大したものだ」
「ん。あたしは天才。
もっと褒めてくれてもいい」
「はは、言ってろ言ってろ」
懸念であったダンジョン探索は順調そのものだった。
探知魔術を使用し索敵。
敵対者に反撃の余地を残さず鮮烈な先制攻撃。
これだけで大抵の敵は片付いた。
邪魔にならないか心配だったガリウスも上手く立ち回ってくれていた。
攻撃魔術の効果範囲内にいたら一緒に黒焦げだったのに。
機嫌よく冗談交じりにそう告げたら彼は大袈裟に驚いていた。
そんな彼がおかしくて、つい笑ってしまう。
しかし――そんな余裕は最下層についた頃には吹き飛んでいた。
「ハア……ハア……」
「おい、息が荒いぞ。
少し休憩した方がいいんじゃないか?」
「――うるさい。
邪魔をしないで、と約束した筈。
目的地は近いから――大丈夫」
心配そうに近寄るガリウスを邪険に追い払う。
何か言いたそうにしながらも離れるガリウスに少し胸が痛む。
誤算だった。
魔力貯蔵量には自信があったけど……
今までこんなに連続で魔術を使用したのは初めてだったのだ。
呼吸が乱れ激しい動悸はするし頭の芯が痺れるように痛い。
そんな最悪のコンディションでもあたしは止まらず進み続ける。
あたしはあたしの優秀さを示さなくてはならない。
頑固で融通の利かない幼さ――
その報いは、最悪の形で現れる。
「うそ、なんでここにレッサーデーモンが……」
最奥の大広間であたし達を待ち受けていたのは翼の生えた異形の悪魔。
奴は久しぶりの獲物の到来に甲高い歓喜の声を上げ始める。
マズい……
あいつら異界の住人に、この世界の魔術は効きづらい。
素の魔力抵抗値が高いこともあり、ほとんどダメージを与えられないのだ。
何故あんな奴が……
本来ここには悪魔を象ったガーゴイルがいるべきなのに。
その魔核さえあれば、試験に受かるというのに。
無論――撤退は認められている。
一度で魔核を得られなければ何度挑戦しても構わない。
けど、ここから撤退しようにも奴はあたし達を敵と認めた。
未だ未熟なるレベルでは悪魔には対抗出来ない。
さらに逃げられ――ない。
覆せない死の予兆。
震えて力の入らない膝。
絶望に揺れるその身体が――がっしりとした手に支えられる。
「――大丈夫か? しっかりしろ!」
道中幾度も聞いたその言葉。
ああ、そうか……あたしは独りじゃない。
ただそれだけで胸の内に温かい何かが燈る。
あたし一人なら勝てない。
けれど――彼の力を借りられたなら?
「貴方に頼みがある」
「何でも言ってくれ」
「あたしと協力してあの悪魔を倒して欲しい」
「了解――心得た」
「貴方には迷惑を――って、はっ!?
疑問とか反論は!?」
「君が望み、俺に命じた。
ならば俺はその期待に応えるのが仕事さ。
それにな――」
「危ない!」
あたし達の様子を窺っていたレッサーデーモンだったが、動かないあたし達を臆したと思ったのだろう。翼をはためかせ襲い掛かってくる。
あたしは咄嗟にガリウスに身体機能増加、攻防力強化の補助呪文を掛ける。
けど彼に悪魔の相手は――
「――それで正解だ、ミザリア。
自分に出来ない事でも誰かを信じ託す事が出来る強さ――
それもまた魔術師として重要な道の一つだ」
豪剣一閃。
ダンジョンに入り初めて振るわれた彼の剣。
烈風としかいえない凄まじい斬撃は――
青銅の様に硬い外皮を持つかの悪魔を試し切りみたいに抵抗なく斬り裂いた。
表情がないのに、両断された悪魔も訳が分からないといった顔で消滅していく。
極度の緊張の後に訪れた、コミカルともいえる結末。
あまりといえばあまりの光景に繋ぎ止めていた糸が切れたのだろう。
回収したレッサーデーモンの魔核を手に、いつもと変わらぬ様子で飄々と近寄るガリウスを視界に入れながら――あたしは気を喪った。
次に気付いた時はダンジョン前広場の木陰だった。
気怠い身体の下にはマントが敷かれ、額には濡れタオルが乗せられている。
誰がここまで?
無論、そんなのは決まっている。
「おっ――気付いたか?」
身を起こしたあたしに声を掛けてきたのは勿論ガリウスだ。
ダンジョンへ挑む前と何も変化がないその表情に少々腹が立つ。
だからあたしは――率直に疑問をぶつけてみる。
「それで……あたしは合格?」
「――どういう意味だ?」
「言葉通りの意味。
貴方が今回の現場監督官。
おそらく本来は死人や重傷者を出さないよう陰から生徒を支える、サポート役」
「まいったな……そこまで理解してるのか。
ああ、認めるよ。
君を教えている導師に頼まれてね。
優秀だけど無茶をする娘なので、せめて試験時くらい見守ってくれってね」
「先生が……」
「君は確かに天才肌だ。
知識だけでなく、同世代でも抜きんでた実力も兼ね揃えているだろう。
けど――それ故に人の情にうとく、些細な事で挫折しやすい恐れがある。
だから今回の探索を通して、君の資質を見極めさせてもらった」
「――それで?」
「結果は……
勿論、合格だ。
窮地にこそ人の本性が垣間見える。
君は至らぬ自らを知りながらも、我を通さず誰かに頼る事が出来た。
導師の仕事は一人ではこなせない。
連携する事の重要さを見るのも試験なのさ。魔核はおまけだ」
「そう……」
なんとも間の抜けた話だ。
自分だけが自分を優秀と思い込み――とんでもない過ちをする所だった。
先生はそんなあたしの危うさを理解してたからこそ護衛の冒険者の中にガリウスを交ぜ合わせてくれたのだろう。
少しだけ大人な彼が――至らぬ小娘に世間を知らしめるように、と。
師の心情は理解できる。
ただ――定められたレールに乗せられたままじゃ面白くない。
なのでガリウスには悪いけど――彼で意趣返しをする。
「ガリウス」
「ん?」
「合格ならお酒を奢ってもらう代わりにお願いしたい事がある」
「お、なんだなんだ?
俺に出来る事なら何でもするぞ」
よし。言質は取った。
「なら――
導師の資格を取ったら、あたしとパーティを組んでほしい」
「そ、それは……」
「――駄目?」
「くそっ……何で急に可愛い子ぶるんだよ!?
上目遣いで拳を震わせるって、そういうキャラじゃないだろう、お前!」
「てぃーぴーおー?
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「あたしもそう思う。
それで――返事は?」
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合う合わないって結局フィーリング。
ならばあたしは――貴方の傍で戦いたい。
だからこれは約束であり誓約。
あたしは必ず導師になって――貴方に会いに行く」
「ああ、待ってるよ……
たとえおっさんになっても」
「残念だけどガリウスはもう――充分おっさん」
彼の振ったネタにちゃんと応じ、顔を見合わせ噴き出し合うあたし達。
こうしてこの日を境に――あたし、ミザリア・レインフィールドには――
とても大切な思い出と約束が出来たのだった。
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