勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、活躍する

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「受付のメイアに頼まれて急いで駆け付けたが……
 どうにか間に合ったようだな」

 颯爽と現れたおっさんは安堵するように溜息を零す。
 そして手にした剣を油断なく構えながら痺れて動けないボクにゆっくり近付く。

「こんな事もあろうかと」

 まるで魔法みたいにおっさんの手に出現するポーションの瓶。
 おっさんは目前を睨みつけながらそれをボクに振り掛ける。
 ドロリとした中身がボクの身体に触れるや、すぐに揮発。
 すると――身体の内側が急にポカポカしてくる。

「大丈夫か? 今、君に解毒ポーションを掛けた。
 口から飲む経口摂取じゃないから少し時間が掛かるが……痺れが取れる筈だ」
「あ、ありがとう……ございます」

 おっさんの言う通り、激しい動悸が収まっていき緊張が弛緩。
 痺れが徐々に和らいでいく。
 今にして思えばさっきから感じてた体調不良や足取りが重かったのも盛られた
痺れ薬の影響なのかもしれない。
 懸命に身を起こすボク。
 おっさんはボクの胸元が斬り裂かれ露わになっているのを痛ましそうに見た後、自分の羽織っていたマントを掛けてくれる。
 ほんのり漂う体臭。
 何故かその匂いに心から安堵する。
 ボクが動けるようになったのを見届けると、おっさんはガリウスを真正面から見据える。彼は突如現れたおっさんの存在に狼狽してるようだった。
 先程までの大物ぶって落ち着き払った態度が一変――
 ボクの眼から見ても動揺を隠せないでいる。

「き、貴様……いったい何者だ」
「もう見当はついてるんだろう?
 最近俺の名を騙り――あろうことか新人狩りまでしているというロクでもない奴がいると聞いてな……お前がそうで間違いないな?」
「貴様まさか本物の……」
「ああ、俺がガリウスだ。
 随分と好き勝手にやってくれたな――
 温厚な俺でもさすがにキレるぞ」

 ど、どういうこと!?
 ボクを陥れたガリウスは偽物で、目の前のおっさんこそが本物のガリウス!?
 衝撃の事実に理解が追い付かない。

「くくく……
 お人好しでうだつの上がらないと評判のお前なら、バレないと思ったんだがな」
「単純にやり過ぎたんだよ、お前は。
 デビューした新人が次々と失踪していたらギルドも不審に思う。
 さっきお前が抱き込んでいた門番にキツく『訊いた』ら、全て吐いたぞ。
 あっちこっちに手を広げ、随分と罪のない命を手に掛けたようだが……
 お前――いったい幾人の命を奪った?」
「さあな、10人から先は数えるのをやめちまった」
「……何も思わなかったのか?」
「貴様は今まで食べたパンの枚数を覚えてるのか?
 一人殺せば十人殺すのも百人殺すのも変わらない。
 それにな――虫唾が奔るんだよ。
 夢を追うばかりで現実を知らない甘ちゃんな屑共を見るとな!
 だからオレは新人を潰す。
 二度と戯言を吐けないようにしてやる」
「救われないな、お前は。
 ただ――その報いは受けてもらうぞ」
「ほう、どうやって?」
「殺さず生かして捕まえ、司法に突き出す」
「ほざけ、雑魚が!
 オレの本当のランクはB級!
 万年D級の貴様が敵う訳ないだろうが!!」

 本物のガリウスの宣言に激昂し、狂貌を剥き出しで襲い掛かってくる新人狩り。
 危ない!
 あいつの言葉が本当なら、D級のガリウスでは太刀打ち出来ない――
 目前で起こる惨劇に思わず目を背けようとするボク。
 しかし次の瞬間――

「これでB級? 笑わせるな」
「なにぃ!?」

 電光のように翻ったガリウスの剣刃。
 攻撃を跳ね返され、たたらを踏んで体勢を崩す新人狩りへまるで舞を連想させる流麗な斬撃を繰り出す。
 数え切れぬ反復動作に支えられた事を窺わせる、力強く的確で実直な剣。
 綺麗だ、と思った。
 星のような煌めきに――ただ魅せられた。

「ぎゃああああああああああああ!!」
「両腕両脚の腱を断ち切った。
 ポーションでも回復できない損傷だ。
 上位の回復法術なら別だろうが……まあお前じゃ無理だろうな。
 彼女らは金額だけじゃなく被施術者の人柄も見て法術を扱う。
 浅はかなお前では残念ながら眼鏡に適わないだろう」
「き、貴様!
 何だこの腕前は!?
 元B級のオレが反撃どころか剣筋すら視えないだと!?
 D級というのは偽りなのか!?」
「いいや、本当さ。
 俺はD級で間違いない」
「ならば――何故こんな腕前を!?」
「ギルドから幾度も要請はあったんだがな――
 わざと昇級しないんだよ、俺は。
 昇級すれば確かに任される仕事も増え、贅沢も出来る。
 けどな――時折出るお前の様な輩をのさばらせる事になる。
 かつて大事な者を喪った身としては――それを阻止する方が重要なんだ」
「ありえん!
 名誉と栄華が欲しいと思わんのか!?」
「――いらないね。
 俺は、俺の手の届く範囲で大切な奴等を守れればそれでいい――」
「馬鹿な――っが!」

 これ以上の問答は無意味と思ったのだろう。
 ガリウスは芋虫のように地面を這う新人狩りの頭部を剣の束で一撃。
 新人狩りは無様にわめきながら泡を吹いて昏倒した。

「ふう……どうにかなったか」
「あ、ありがとうございます助けてくれて!」

 剣を鞘に納めながら大きく息を吐くガリウスへボクは駆け寄る。
 そして――いきなり頭をはたかれた。

「うえ!?」
「無防備に俺を信頼するんじゃない!
 さっきこいつが言ってた事は間違いじゃないんだぞ。
 自分で考え、何を信じ、どう判断するべきか――
 常に自らの命を天秤に掛け続ける冒険者にとって、それが最低限の責任だ!」

 怒りではなく本気で心配してくれてる事が分かるおっさんの指摘。
 まるでそれは娘を心配する父の一言の様で……心にスン、と染み渡る。
 そっか……ボクは今日まで夢を見るばかりで現実を見てこなかった。
 英雄譚の登場人物に憧れるばかりで未熟な自分を客観視出来なかったんだ。
 ボクは……なんて愚かなんだろう。
 驚愕と羞恥に石像のように固まるボク。
 けれどガリウスはそんなボクを叱責するのでなく正面から見据える。
 厳しい眼差しがボクを捉え――おもむろに優しく微笑む。

「色々言い過ぎて悪かった。
 でも、君が無事で良かったよ――
 生きてれば、何度でもやり直せるからな――」
 
 慰めの言葉と共に優しく頭を撫でてくれるガリウス。
 あ、駄目だ。
 もう我慢できない。

「うわああああああああああああああああああああ!!
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「ああ、こら。泣く奴があるか」
「怖かった怖かったこわかったよおおおおお!!」
「そうだな、今回は失敗した……
 でも無事生き延びた。
 学んだ事は次に活かそうな?」
「うん……」

 硬い皮鎧の胸元に抱き着きながら幼子の様に泣きじゃくるボクを――
 ガリウスは優しくハグしながら落ち着くまで語り掛けてくれるのだった。














 そして今回の後日談。

「うう”……なんでボクがこんな目にぃ~」

 マスクの上からでも漂う悪臭に辟易しながらもボクはスコップを動かす。
 ドブに溜まった汚泥は色々なモノが混ざり合い、正直めっちゃ汚い。
 重労働に汗が流れ出し、新調したシャツに張り付いて気持ち悪い。
 これは先程までと変わらない。
 ただ――さっきまでとの違いもある。
 それはボクの傍らで応援し、仕事を見てくれているガリウスがいる事――

「ほらほら、手を休めるな。
 冒険者は一に体力、二に体力。
 三四が知力と技量で五に体力だ。
 英雄譚で有名な聖騎士だって言ってただろう?
 鍛えた筋肉は裏切らない――
 それは間違いなく真実だ。
 俺とパーティを組みたいと言ったのは君だ。
 なら、早くライセンスを手に入れろ」
「さっきの新人狩りを突き出した報奨金で、もう払えるのに~」
「確かに君にも分け前はやった。
 ただあれは、今後君の装備を整えるのに使う予定だ。
 無駄遣いはさせん。それにな――」
「それに?」
「良い冒険者は決して依頼を投げ出さない。
 どんなつまらない依頼でもコツコツやり遂げる。
 それが冒険者の矜持ってものだ」
「うう~正論だ~」
「ほれほれ、黙って手を動かせ。
 な~に、君が頑張ればあと1時間で終わるだろう。
 そしたら風呂と飯を奢ってやる。
 湯上りの一杯は最高だぞ?」
「おっさんくさぁ~い」
「むっ。人が気にしてる事を」
「それとね、ガリウス……君じゃない」
「なんだ?」
「ボクの名はアレクシア。
 親しい人はシア、って呼んでくれてる。
 だからプライベートな時はシアって呼んでほしい」
「そ、そうか……照れるな」
「おっさんが恥じらってもねー」
「ええい、うるさい。
 お喋りはいいから早くしろ。
 それと――俺には仲間がいる。
 おっとり風なのに腹黒な神官と、アタマでっかちでこましゃくれた術師だが……
 君とは気が合うと思う。
 あとで紹介させてくれ」
「うん! 楽しみ~」

 この後紹介されるおっさんの仲間、フィーナにミザリア。
 数々の冒険で運命を共にする彼女らとの出会いもさる事ながら――
 ボクこと、アレクシア・ライオットは――泥に塗れながらも――おっさん冒険者ガリウスと巡り合えた幸運を、この日を思い返す度に天へ感謝するのだった。


 
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