勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、蘊蓄を語る

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「すまないが、マティーニを頼む」
「お好みは?」
「ドライなヤツを。付け合わせは塩とレモンで」
「了解致しました」

 精霊都市エリュシオン冒険者ギルドに併設されたBAR『煉獄』。
 荒くれ者を相手にする為なのだろう。
 やたら頑丈な樫のカウンターに腰掛けた俺はお気に入りの酒をマスターへ頼む。
 食事の際に飲んでいたワインじゃない。
 本格的に蒸留した酒、ジンをベースにしたカクテルである。
 これに比べたら先程のワインは確かに上質だろうが、まるで水みたいなもんだ。
 漢が飲む本物志向の酒とはこういったものを指すのだろう。
 俺の注文にマスターは手慣れた手付きでシェイカーを振る。
 また飲むには少し早い時間の為か、人気のないBAR。
 静寂なままの店内を、マスターの振るシェイクの音だけが支配する。
 そして無言で差し出されるレモンが飾られたグラス。
 共に出された塩をそっとまぶし、俺は一気にグラスを呷る。
 瞬間、喉元を通り過ぎる灼熱と鼻から抜ける強烈な香りの協奏曲。
 深い溜息を零すと俺はもう一度同じものを頼む。
 年月を掛け寝かせたウイスキーとは違い、まろやかなコクはない。
 だが脳髄を掻き乱されるようなこの鮮烈さは一度覚えると病みつきになる。
 駆け出しの頃、師匠が飲むのを真似してはよくむせ込んでいたものだ。
 急いで大人になる必要はない、と苦笑する師匠だったが俺にも意地があった。
 こうしておっさんになると当時の師匠の気持ちが分かる。
 師匠は俺にゆっくりと大人になってほしかったのだ。
 後輩が目覚ましく成長していくのは年長者にとって嬉しい反面、寂しいものだ。
 最近シア達三人を相手にしていると頓に感じる。
 そんなに慌てなくともよい。
 年月は誰にでも等しく訪れるのだから。
 気紛れとはいえ俺を拾い鍛えてくれた師匠もきっと同じ気持ちだったのだろう。
 あの人は今頃何をしているのやら。
 出鱈目な強さを誇る師匠の顔を思い出し感傷的な気持ちになっていると、BAR扉の開閉音と共に隣りに腰掛ける影。

「お待たせ」
「いや、俺も今来たところだ」
「そう? ならいいけど」

 それは勿論メイアだった。
 勤務時間が終わったのだろう、甘めのカクテルを頼んでいる。
 お堅い管理ゲート職員の制服を脱ぎ捨て、今はラフなセーターにタイトスカートを穿いた姿だ。少し野暮ったさを感じる眼鏡も変わらずだが、良く似合っている。
 上機嫌で話し掛けてくるメイアだったが俺が飲んでるグラスを見て眉を顰めた。

「な~に、またそれなの?
 前に飲んだ時は辛くてマズいって騒いでたじゃない」
「最近はこれが美味いと思えるようになってきた。
 俺も立派なおっさんだな」
「ならばワタシはおばさんね。
 まったく――誰かのせいで嫁き遅れになっちゃたわ」
「俺のせいなのか?」
「そうよ?
 ロクでもない人の担当官になっちゃったのが運の尽き」
「――あの頃は色々無茶もしたからな」
「今は違うの?」
「少しは――先の事を考えれるようになってきたさ」
「へえ~進歩したじゃない」
「時間だけは誰しも平等だからな」
「ぷっ。なによ、それ」
「やり直したい過去は誰にだってある」
「あら、残念――
 ワタシとは反対ね。
 人の瞳が背中についてない理由は何故か知っている?」
「いや?」
「それはね、前に向かい生きる――未来に向かう為よ。
 だから過去に囚われている時間はないの」

 メイアはグラスを上品に飲み干すと一冊の封筒を差し出す。

「はい、これ。
 頼まれていた事件に関する資料。
 生憎だけど――ワタシは新しい出会いにチャレンジしてみるわ」
「さっきの少年か?」
「ええ、面白そうじゃない」
「彼は何者だ?
 あんなレベルの魔導書を複数所持する――只者じゃない」
「内密にできる?」
「マスターがいるぞ」
「彼はギルド職員だからいいのよ」
「なるほどな、酒の席では冒険者や依頼人も口が軽くなる。
 そういったところまで手を伸ばしてたんだな」
「こんなの初歩よ、初歩。
 それで――聞きたい?」
「ああ」
「彼ね――この世界に生まれていない存在。
 つまり異界からの客人、らしいわ。
 今、ウチのところが必死に背後関係を洗ってるけど」
「異界からの客人――稀人か。
 ならば頷けるな。
 規格外の魔力の割に抜けていて、それでいながら全てを切り捨てる酷な感じ。
 あのちぐはぐさは――従来の型には嵌らないタイプだ」
「ええ――なので今頃は各諜報機関も大騒ぎね。
 マークされていない一流の召喚術師はそれだけで一騎一軍に匹敵するもの。
 情報欲しさにワタシにまで接触して探りを入れろ、なんて指令が来たし」
「なるほどな。だから行くのか?」
「探りを入れるのは気は進まないけど、ね。
 あの子自身は良い子そうだからそれでも楽しみなのよ」

 微笑を浮かべそう告げると、メイアはストールから長い脚を下ろす。

「じゃあね、ガリウス。
 あの娘たちと幸せに――」
「なあ、最後に一つ――いいか?」
「何かしら?」
「究極にドライなマティーニの楽しみ方って知ってるか?」
「……どういうこと?」
「ベルモットの瓶を横目で眺めながらジンを飲むらしい。
 正視すると「甘すぎる」から駄目なんだと」
「何よ、それ――変なの。
 じゃあワタシは行くわ。またね」

 呆れたように苦笑するとメイアは清算を済ませBARを出て行く。
 結局彼女を真っ直ぐには見れなかった。
 その理由は語るまでもないだろう。
 過去に囚われず未来に生きる、か。
 彼女はいつもポジティブだったな。
 残された俺は颯爽と去る彼女の後ろ姿を横目で見ながらグラスを傾ける。
 いつもは辛いマティーニが少しだけ甘く感じたのは……
 マスターが配分を間違えたせいなのだろう、きっと。
 



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