勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、慟哭する

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「な、何だ爆発したぞ!?」
「見ろ、燃えてる!」

 突然の事態にざわめく声が聴こえるよりも先――
 俺はBARのマスターに飲み代の金貨を放り投げると急ぎ店の外に出る。
 お客様お釣りが、との声は聞かなかった事にする。
 今は何が起きたのか一刻でも早く直接確認しなくては。
 石造りの頑丈な建物はこういった時不便だ。
 外からある程度隔離されている為、状況把握に手間が掛かる。
 重い樫の扉に手を掛け、勢い良く解き放つ。
 都市中央部に近いギルド――その外は混乱の坩堝にあった。
 道行く通行人は皆足を止め、夜空を焦がす炎を見上げている。
 あっちの方向は……嘘だろ。
 酷い焦燥に駆られながら駆けだそうとするも、棒立ちになっている人々が邪魔で思うように前に進めない。
 闇夜に輝く紅蓮の焔。
 それは俺がギルドへと情報収集に行く為、不満を告げる三人に待機を命じていた春の仔馬亭のある方面から立ち昇っていた。
 ここからでは視えないが嫌な予感がする。
 こういった時の勘が外れないのが俺の良いところであり困ったところだ。
 しかし混雑する道を行くのでは埒が明かない。
 ならば――違う道を行くのみだ。

「こんなこともあろうかと」

 酔い覚ましの為、収納スキルによって取り出した解毒ポーション(アルコールも立派な毒だ)をぶっかけると、俺は風の基本魔術を足元に集約させ発動。
 突風と自身の力を累乗させ一気に屋根に飛び移る。
 視えた!
 ここから程遠くない場所にある春の仔馬亭――確かにそこが炎上している。
 宿自体が燃えているのは分かるが詳しい状態までは読み取れない。
 あいつらは無事か!?
 余程の事が無ければおそらくは大丈夫だろうが……確定は出来ない。
 例えS級ランク冒険者だろうが、油断している所を攻められれば不覚を取る。
 そう――人は簡単に死ぬのだ。
 取り返しが付かないからこそ――命は大事なのに。
 くそ、このまま屋根伝いに向かうか。
 情報が無い以上、こうなったら少しでも早くあいつらの下に向かうのみ。
 高速移動魔術を併用させて走り始める俺だったが――ホンの数歩も行かぬ瞬間、身に纏う風の障壁ごと何かに叩き付けられ屋根に潰れ伏す。
 慌てて頭を上げた先には黒ずくめの男達が数人いた。
 ご丁寧にも覆面を被り、身元のバレぬ黒装束姿という如何にも悪役な奴等だ。
 そいつらの手がこちらに向けられているのを見るに、何かしらの魔術かスキルが使われたに違いない。
 移動用に風の障壁を身に纏っていて本当に良かった。
 障壁でダメージを軽減出来ていなければ行動に支障をきたすところだった。
 何にせよ無警告で人を攻撃する以上、覚悟は出来てるんだろうな?
 瞬時に戦闘思考へと切り替えた俺は無慈悲に告げ抜剣、スキルを解き放つ。

「魔現刃(マギウスブレード)――【凍嵐】!」

 発動させたのは烈風に水の温度低下を強化させ複合したものだ。
 吹き荒ぶ風に混じった吹雪は実際の体感温度を恐ろしいまで引き下げる。
 つまりこの魔現刃の効果は外傷こそないものの、瞬く間に身体機能を凍結させ行動不能へ陥り――速やかに無力化する事が出来る。
 こういう複数に囲まれた、尚且つ街中で殺しが御法度な際には重宝する。
 以前雪国を旅した時に実体験して得た知識が役に立った。
 その場に蹲り痙攣する黒装束の男達。
 懸命に足掻く手が覆面に掛かり、一人の男の顔が露わになる。
 露出した素顔を見た俺は驚愕する。
 そいつは現在行方不明――失踪した筈の冒険者だった。
 何かを誰何するより早く、男たちは光の粒子と共に消えていく。
 この消え方……間違いない。
 俺は先程感じた違和感の正体に気付き戦慄を覚える。
 ならばこそ早く行かなくては――
 魔術式を再起動、全力疾走に移る。
 やがて見えてくる春の仔馬亭。
 業火に燃える宿の裏広場で対峙する一人の陰とあいつらの姿。
 すでに戦闘が始まっていたのか、倒れ伏しているリアとフィー。
 火事による被害はなく、緩やかに隆起する胸を見るにまだ命はある。
 二人を護る為か、懸命に魔法剣を振るうシアだったが――
 無情にもその刃は敵に届かず、流麗な受けから繋がれ紡がれる、惚れ惚れするほど神速の一太刀で斬り伏せられる。
 信じられない顔をしたままその場に崩れ落ちるシア。
 彼女にとっても未知の経験――
 いや、正確には俺以外で味わったことがない筈の経験だろう。
 魔力を具現化した刃に対抗出来るのは――同じく魔力を具現化した刃のみ。
 そんな芸当が出来る存在を俺は自分以外では一人しか知らない。

「やめろおおおおおおおおおおおおおお!!」

 なので俺は全力でその場に割り込む――
 何故ならシアが倒れた今、その人に対抗出来るのは俺だけだから。
 乱入した俺目掛け振るわれる凶刃。
 発動させた魔現刃に重苦しい圧力が掛かる。
 この重圧、この技量――
 もはや間違えようはない。
 受け太刀からの返す刃で切り上げるも、あっさりと後方へ躱される。
 そりゃあそうだ。
 この剣技は今あなたが披露したもの――
 あなたから伝授されたものなのだから。
 距離を取りこちらの動向を静かに見定め観察してくるその人に、俺は溢れる激情を抑えながら問い掛ける。

「何を……
 いったい何をやってるんだ、師匠ぉ!」
「誰かと思えばガリウスか……久しいな」

 俺の心からの慟哭に、我が師ファノメネルは微笑みながら答えるのだった。
 


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