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おっさん、匙を投げる
しおりを挟む「ば、馬鹿な……
そんなくたびれた中年男が、儂の隷属呪縛を打ち破ったというのか!?
有り得ん……そんな事はあってはならぬ!」
宙に浮かんだまま慄き震える十三魔将【獣僕】のプリンペラン。
自慢の隷属を、俺のようなおっさんが撃破したのが信じられないというより納得がいかないらしい。
いい加減こいつも底の浅さが見えてきた気がするな。
しかも悪役として言ってはならない「馬鹿な」を口にしているし。
英雄譚でも大概これを口にした悪役は主人公にズンバラリンされている。
確かに魔将と称されるだけあって恐ろしい力を持っているのだろう。
だが――今まで対峙してきた魔将達に比べ、どうにも格の違いを感じる。
何というか本質的な怖さが感じられないのだ。
それは多分レベル的な概念だけでなく、最前線へと赴いて事を為すモノの矜持と、召喚した下僕に隠れ姑息に策を練るモノの精神的な違いもあると思う。
打ち震えるプリンペランの独白を静聴していた師匠だったが、つまらなそうに鼻を鳴らすとドヤ顔で説き伏せに掛かる。
「ふん。いい加減現実を見つめるんだな。
貴様の卑劣な策により隷属を強いられた私だったが――
こうして呪印も破棄され、完全に自由の身となった。
魔導書に呼び掛けても何の反応もあるまい?」
「くっ……確かに」
「では、ここで問おう。
何故――貴様の隷属は解けたと思う?」
「わ、判らぬ……」
「フッ、愚か者めが!
そんな簡単な事に何故気付けぬ!?
貴様は師を思う――そう、この愛弟子の心に負けたのだ!
巧妙に隙を突かれなくば、貴様のような三流に後れを取る私ではない。
覚悟するがいい!!」
「ぐぬぬ」
おお~さすが師匠、煽る煽る。
攻撃ならぬ口撃も一流だ。自尊心を叩きまくるし。
表情があまり分からぬ蟲の顔だというのに、血相を変えるくらい怒り狂っているのがよく理解できる。
けど……完全に自分の事は棚に上げてませんか、師匠?
貴女、俺の事を出涸らしとか言ってましたし。
まあ俺も我が身が可愛いので思った事は口にしない。
「ぐふっ……
視えなかった……何も」
――だというのに、神速で無言の肘撃ちが脇腹に刺さっていた。
不肖の弟子が考えていることなどどうやらお見通しらしい。
「か、下等な人族風情がほざきよるわ……
じゃが――こうなれば儂の真の力を見せつけてやるのも一興か」
脇腹を抑え蹲る俺だったが、そんなことなどお構いなく――何やら悦に浸り始める魔将プリンペラン。魔導書を掲げると、奴の背後に幾つもの召喚陣が浮かび上がり、莫大な魔力がうねり始める。
「さあ、この数多の召喚魔を相手に地獄を見るが――」
「遅い!」
講釈を垂れ粋がる魔将へ無慈悲に放たれる師匠の先制攻撃。
大地から隆起した無数の石槍が召喚陣諸共、プリンペランを貫いていく。
「ほ、ほげえええええ!
何故じゃ、精霊魔術は詠唱と発動時間が必要な筈!?
今のはまったくの無詠唱じゃった……
そんな、そんな馬鹿な事があるのか!?」
理解不能といった感じで錯乱するプリンペラン。
魔導書特有の防御、フォースフィールドと呼ばれる障壁が奴を護ったらしい。
だが師匠のタネが割れない以上、常に先手を取られ続ける事は変わらない。
師匠は並び立つ者なき偉大なる精霊――そう、この星に宿る惑星霊そのものの祝福を受けた、いわば星霊使いなのだ。
そんな彼女が精霊の恩寵が未だ残るこの都市で精霊魔術を使えばどうなるか?
――結果を見るまでもない。
大規模精霊魔術の、ノータイム連続無疲労発動を可能とする。
今しがたプリンペランを攻撃した石槍術も、ただ大地の上位精霊ベヒーモスに向かって「勃て」と地面を蹴りつけただけである。
必要以上に奮起してる光景に、俺は師匠のドSさを垣間見て戦慄する。
「ボケっとするな、ガリウス。
私が奴に命じられ確保してた冒険者共がここに集ってきてる。
有象無象の輩共とはいえ、中には手強い奴等もいる。
そっちは任せたぞ」
「え、俺一人ですか?」
「何を言っている……
お前には可愛い連れがいるだろう?
いい加減起きろ、寝ている振りはもういい」
「は~い」
「ん。了承」
「じっとしてるのは疲れますわ」
「お前達――無事だったのか!?」
師匠の声掛けに跳ね起きる三人。
不敵な笑みでサムズアップを返してくるのを見るに、どうやらいつの間にか昏睡状態から回復していたようだ。
「私が何の策を用いず命令に従っていたと思うか?
この者達には囁きの精霊ウィスパーの力を借りて事情を説明しておいた。
奴の監視下にあり身動きが取れぬ私に従い、やられる振りをして一芝居打ってくれたのだ」
「だって――おっさんの師匠なんていうし」
「報酬にガリウスの恥ずかしい過去話を差し出すと聞いた」
「ならば協力しない手はございませんわ」
「お、お前らなぁ……」
悪びれず、てへペロと片目を瞑る小悪魔たちに俺は頭を抱える。
まったくどれだけ俺が心配したと思っているんだ。
しかし――今はまずこの場を切り抜けるのが先だ。
俺達はこの場に集結しつつある冒険者らを遠目に、迎え撃つ準備を始める。
「そういえば師匠はどうするんです?」
「決まってるだろう?」
妖しくも物騒な笑みを浮かべた師匠が指を鳴らす。
次の瞬間、師匠は光輝く全身鎧に身を包まれていた。
あれは師匠の奥義――精霊武装【スピリチュアルアームズ】か。
全身に魔術効果を顕現化させた精霊たちを宿す、規格外の神秘。
俺の習得した魔現刃はあくまでこれの亜種にしか過ぎない。
「奴を潰してくるさ……
生きてきたのを後悔するくらいにな」
そう嘯き――師匠は空を駆ける。
この状態の師匠はもうなんでもありだ。
自分で思い描く事の大半を精霊の力を借りて顕在出来る。
勇ましくも美しいその雄姿を見て、戦乙女と師匠を喩えたという詩人の気持ちが少しだけ分かるな。
まあ何にせよ万全の師匠を敵にした段階で魔将の末路は決定された。
事実数分後、もはやここまでいくといっそ清々しいと思う位の破壊音と断末魔と共に――この一連の事態は終結されるのだった
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