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おっさん、愕然とする
しおりを挟む「まさかお前に助けられるとはな、ガリウス……
不肖の弟子という言葉は取り消そう。
しばらく見ない間にずいぶん逞しく成長したものだ」
払暁。
朝を告げる陽光が優しく射し込み照らす中――
師匠は全てから解放された様に晴れ晴れとした表情で言った。
実際解放された事には変わりはないのだろう。
自由を愛する師匠にとって、行動だけでなく精神すらも呪縛される隷属はかなりのストレス状態だったに違いない。
傲岸不遜、唯我独尊を地でいく師匠が珍しく素直に礼を述べている事からもそれが窺える。
「弟子が育つ姿はいつ見ても良いものだ。
驕ることなくこれからも更なる成長を――」
「きゃわいいいいいいいいい!」
「んんん愛でる愛でる!」
「もう~なんなんですの!? 可愛過ぎですわ!」
「こ、こら! 何だ唐突に!?」
せっかく良い事を語り始めた師匠だったが、我慢できなくなった三人娘に囲まれ揉みくちゃになっている。
眼が完全にハートマークのバーサク状態だ。
こうなった時のこいつらを止める事は不可能。
俺は抵抗できず強引に抱き締められ、おもちゃにされている師匠に対し心の中で涙を流しながら合掌する。
しかしこいつらが我を失うのも無理はない。
今の師匠は五歳くらいの美幼女の姿になっていた。
天使の輪っかが浮かぶサラサラヘアー。
零れ落ちそうなほど愛くるしい麗しい双眸。
それらが完璧に配置された容姿端麗な絶世のロリっ娘。
中身が師匠と分かってる俺でさえナデナデしに行きたいという本能を辛うじて理性で抑え込んでいる状態なのだ。
耐性の無い者、堪える気がない者なら一発で撃沈であろう。
なんでも精霊武装の副効果で、一定時間だけ若返ってしまうのだそうだ。
厳密には身体を構成する魔力不足を幼児体型で補うとか何とか。
まあ詳しい理屈はどうでもいい。
現実として師匠は五歳くらいの美幼女に成り果てていた。
そんな姿で腕を組み偉そうに語っても、愛らしさに拍車を掛けるだけだ。
「や、やめろお前達!
頭を撫でるな頬を摺り寄せるな身体を抱き上げるなぁ!
こらっ、ガリウス!
笑って見てないで、早くこいつらを止めろ!」
「無理ですよ、師匠。
そうなったこいつらを止める術はない。
残念ですけど――飽きるまで付き合ってやって下さい」
「――この阿呆め!
やはりお前は馬鹿弟子で充分だ!」
肩を竦め降参する俺に師匠は激昂しながら怒鳴る。
それすら可愛いと思うのだからもはや喜劇としか言いようがない。
燃え盛る炎を一瞬で鎮火したのみならず、家屋の精霊ブラウニーに命じて復元までさせた(宿の人に滅茶苦茶感謝されてた)同一人物に見えない。
師匠は何だかんだいってお人好しなのだ。
縛りがある状態ですら余計な人を巻き込まぬよう、襲撃前に人払いの結界を張り備えるくらい。
魔将を倒した後も解放された冒険者達に事情を説明していたし。
ただ暴虐無尽に力を振るうだけでなく、こういった人への気遣いを行えるところが幾つになっても師匠を尊敬してしまう理由である。
「そういえば師匠――」
「何だ、馬鹿弟子」
俺の声掛けに師匠はふくれっ面で応じる。
天使か。
あまりの可愛さに押し黙る俺を無視して師匠は宙に術式を指で刻む。
弱体化しているもその精霊魔術のキレは健在らしい。
確かアレは長距離高速飛行に関わる術式。
そうなるとあまり時間はないな。
「一つ聞きたいんですが」
「ふむ……構わん、話せ」
「何をしに師匠はこの精霊都市へ来られたのです?」
「――あの十三魔将が言っていた黄金姫の話は覚えているか?」
「ええ」
「私の仕事はあやつらの陰ながらの護衛だ。
あやつらが対応できぬ事態を事前に対処し快適な旅を続けて行く為の。
もうこの街を立ったが――
あやつらは為さねばならない使命がある。
精霊のみならず星霊の頼みとあっては断り切れなくてね」
「ギルド職員からも聞いてましたが……
異界からの客人である召喚術師の少年や――
黄金姫とはいったい何者なんです?」
「それはガリウス、お前が知り得ぬ物語の話だ。
ただお前も強い定めを背負うもの。
いつかその道が交わる時があるかもしれないな」
微笑んだ師匠の姿が宙に舞う。
名残惜しそうに空へ伸ばされた三人娘に苦笑しながら。
「私はもう行く。
次の地でもやるべきことがあるのでね。
ここでは不覚を取り魔神共に隷属させられたが……
お前と再び巡り合えた。
弟子の成長を目に出来た事には感謝だな」
「それは何よりですが」
「ふむ。大きくなったよ、本当に。
ただガリウスよ――一つ忠告だ」
「? 何ですか?」
「この精霊都市にはな、先程斃した奴以外の魔神――魔将が一体潜むぞ。
隷属だけが取り柄である序列12位の下位クラスな輩じゃない。
私を罠にかけて従わせる力と策謀を仕掛ける知恵を持った上位魔将がな。
果たして――お前はそれを見抜けるかな?」
「ちょっ師匠――
もう一体魔将がいるってマジですか!?」
「残念ながら本当だ」
「聞いてないんですが!?」
「言ってないしな。
まあ、言うなれば師から可愛い弟子へ餞別代りの試練だ。
これを無事に乗り切れたら――お前を一人前と認めよう。
では、さらばだ!」
天使の様な悪魔の笑顔でさらっと爆弾発言を残し、瞬く間に虚空へ消える師匠。
残された俺達は呆然と小さくなるその姿を見送るしか出来なかった。
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