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おっさん、跳躍する
しおりを挟む「司祭様の居場所――ですか?
確か今宵は領主様主催の懇談パーティに、支部着任のご挨拶をしに向かってるハズですが……って、待ってください!
いったいここで何があったんですの!?
この悪魔達は――」
不躾で唐突な俺の質問に困惑しながらも、律儀に答えてくれるマリアンヌ。
しかしその内容を聞いた俺達は礼を告げるのも――何が起きたのか事情を説明する時間すらもどかしく星読みの間から飛び出す。
最悪の展開だが今ならギリギリ間に合うかもしれない。
体力の戻らないフィーをお姫様抱っこで抱えながら俺はリアに尋ねる。
「リア、領主の館まで跳べるか!?」
「任せて。
伊達に調べていた訳じゃない。
この都市の主要箇所の位置は全て把握済み」
「頼もしいな――
ならば結界のある教団の敷地から出た瞬間、転移を頼む」
「了解」
無表情でサムズアップを返すリアにひとまず安堵する。
俺達が何故焦っているかというと、魔神の次の目的が判明したからである。
おそらく奴は領主に成り替わろうとしている。
それを可能とする事を俺達は【検索の儀】で知ったのだ。
悪魔同様――魔神にも様々な種族が存在する。
強大な力を持つ奴等の中でも、俺が一番恐ろしいと思う存在――それが鏡像の魔神――俗に言うドッペルゲンガー共である。
外見どころか生命の設計図と呼ばれるマテリアルごと複写する奴等を判別する方法は極めて皆無。
前大戦の折には各国の主要人物に成り替わったこれらに手酷い損害を受けた。
何せ脳味噌を喰らえば記憶すらも本人に擬態できるのだ。
幼少期に生じた痣すら複写するこれらを見抜く術はなく――成りすました指導者の出す指示によって、魔神共は常に有利に戦況を進めた。
フィーの口から鏡像の名が出た瞬間、思わず総毛だった程だ。
だが――そこまで分かれば後は簡単である。
奴が誰に成り替わっているか?
それを逆算していけばいい。
盗賊ギルドに依頼していた情報――ここ数ヶ月で新しくこの都市に来た者達の中から、怪しい動向――並びに孤立していても疑われない者をピックアップしたものと照らし合わせる。
それだけでおおよそは絞られた。
魔術ギルドの新任導師、商業ギルドの商会頭取。
そして……教団に新しく派遣された司祭。
これを篩いに掛けていく。
ただこの【検索の儀】に妨害が入る事は経験上理解していた。
しかもここは過程を吹っ飛ばして結果を知り得る唯一の場所。
魔神共にとっては非常に目障りな場所なのは確かだ。
なので邪魔される事を前提に師匠の時と同じく符号を交わす。
依り代となり神と直結しているフィーは全知全能にして零知零能。
正しいアンサーを導く為には俺達が適切な問いを投げ掛けなければならない。
けど――逆に考えてみればいい。
予め答えが出される結果があるならば、その過程で既に答えは判明している。
鶏が先か卵が先か。
賭けに近いものだったが――そこは全知全能の神。
俺達の意を汲んで応じてくれる。
手順を踏んで符号で問い掛けたならば質疑の途中でも答えを開示してくれた。
「戦士ガリウスが問う――
精霊の住まいしこの都市に潜む脅威、此は何ぞ」
「此は迷宮なり。
数多の命を飲み込む混沌の魔窟なり」
「賢者ミザリアが問う――
ではこの世界の理に縛られぬ脅威の輩、此は何ぞ」
「此は魔神なり。
異界より悪しき情念を以て侵攻する禍々しき者共なり」
「勇者アレクシアが問う――
さすればその件の輩、此はどこにいて何を為すものぞ」
「此は鏡像。
全てにおいて偽りを為すもの。
瑠璃色の仮面を纏う邪悪の化身なり。
汝、我が寵愛を受けし者――困難に立ち向かう者達よ。
彼の邪悪なるものは既に――」
このやりとりでフィーの第二節以下の冒頭を繋げていく。
数多の命
異界より
全てにおいて
瑠璃色の
汝、我が寵愛
彼の邪悪
鏡像魔神は誰かという俺の未来の問いに対し「あいするなか」……つまり自身が愛する者達の中にこそ、そいつがいると教えてくれた。
マリアンヌも愚痴っていたが、そんなに影響力のある存在など唯一人――
派遣され着任したという司祭に違いない。
道理で師匠が油断する訳だ。
世俗の権威など物ともしない人だが、豪放に見えて信仰には気を遣う。
弱き人々の祈りの糧を無視できないのだ。
きっと何らかの弱みを見せた隙を付け込まれ隷属されたのだろう。
だからこそ――俺達は急ぐ。
もし領主が鏡像魔神に成り代わられたらお終いだ。
師匠と違い弱い俺達は世俗の権威の恐ろしさを嫌というほど思い知らされる。
さらにそんな立場で何を為そうとするのか……ロクでもない事は確かだ。
こういった緊急時に備え、リアに精霊都市の主要箇所を調べて貰ってて本当に良かった。万能に思える転移術には座標と移動先のイメージが必要だからだ。
時間を掛け調べた甲斐もあり、無駄がないレスポンスの良い転移ができる。
そうして発動するリアの転移魔術。
転移特有の幾何学模様で複雑な積層術式に包まれながら俺達は跳躍する。
戦いの舞台――この一連の事件にケリをつける、決戦の地へと。
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